2016 Fiscal Year Research-status Report
日本建築の素材としての木材に関する調査・研究-近世の木材生産・流通・消費について
Project/Area Number |
25420669
|
Research Institution | Kyoto Institute of Technology |
Principal Investigator |
松田 剛佐 京都工芸繊維大学, デザイン・建築学系, 助教 (20293988)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 近世の木材生産 / 近世の木材流通 / 近世の木材消費 / 直轄林 / 運材・流通技術 / 材木商人 / 材木市場 / 寺社修理 |
Outline of Annual Research Achievements |
近世林業の経済史・制度史・社会史等細分化した先行研究を渉猟し、それらの研究成果を既往研究の少ない木材生産という視点を主軸に再構成することで、木材の生産・流通・消費の各局面へ統括した。 「生産」面では、山林は所有権よりも使用・管理権が重要であり、その形式として領主的林業地の直轄林(木曽・飛騨等)、山方農民が生産を担う大都市近郊林(吉野・山国等)、各農村の入会林、個人持林の4つが基本であったこと。しかし使用権は各形式を複雑に横断する多目的利用であったこと。18世紀には森林資源枯渇により、借地的林業を可能にする単一目的利用へ移行したこと。これにより人工林が出現し、18世紀後期に林分の回復が見られたこと。 「消費」面では、17世紀は全国規模の乱伐に塗れたこと(1606年に木曽から約14,361tの榑木が出材等、全国の伐木量は甚大)。この為17世紀後半に国土劣化が顕著化、留山・輪伐等木材消費の抑制を図る動きが起こったこと。他方で森林の減少は、奥山開発と運材・流通技術の展開を促し、経済成長を背景に有力商人による材木市場が形成されたこと。しかし市場経済を背景にした材木販売が旺盛なのは、例えば飛騨で1771年に元伐が中止等、18世紀迄であったこと。18世紀以降は耕地・薪炭需要との均衡を図りながら、抑制的に森林が利用されたこと。 「流通」面では、乱伐期末期に相当する元禄時代、経済成長のインフレ誘導策として公共事業(寺社修理)が誘発され、高度な伐木・運搬事業の可能な有力材木商人の進出をみたこと。例えば開幕に貢献した経緯から特権的な江戸材木商人、御用材を扱う為権力の介入を受けやすい名古屋材木商人、諸藩との結びつきが強く市売りを支配できる仲買が優勢な大坂材木商人等、支配層の用材生産と関係しながら、都市へ材木問屋・仲買が形成された。 以上の様な、本研究の骨格となる木材生産史の総合的な観点を新たに構築出来た。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は類例研究が少ないため、先ずは関連する既往研究を綜合しなくてはならない。なおかつそれらの成果を学際的に分析するのに留まらず、木材生産という観点を主軸に、学問的に再構築しなくてはならない。このため、新史料の発掘の指針となるべき、研究方向の羅針盤の形成に必要な既往研究成果の渉猟作業に、非常に多くの時間を費やさねばならなかった。また、今年度は辞書の執筆依頼があり、232項目5万字以上を著さねばならなかった。 本研究の新規性故に迅速に成果を展開できないという問題点を克服するためには、新出史料の発掘作業を行わなくてはいけないが、以上のように、学際的分析と学問的考察を両立させなくてはならないために、既往研究を数多く当たらなければならなかったことと、断ることの出来なかった依頼原稿の量の多さが原因で、予定していた新史料の探索が出来なかった。
|
Strategy for Future Research Activity |
前年度に、関連する既往研究を数多く学際的に分析した成果として、本研究を推進すべき明確な学問的骨格を構築することが出来た。研究観点の形成はひとまず現時点で終えたと判断して、この新たな研究観点に基づいて、今年度は史料を数多くあたり、新知見を得ることを目的とする。
|
Causes of Carryover |
多分野に渉る既往の研究成果の取り纏めと分析に膨大な時間を要し、また依頼された著書執筆や学内業務が多忙であった事等により、予定していた新資料探索のための国内出張ができなかったため。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度受領の助成金とあわせて、木材生産および材木流通に関わる史料探索のための旅費として使用する予定である。
|