2013 Fiscal Year Research-status Report
英国18世紀の新古典主義建築思潮における経験論哲学の影響に関する考察
Project/Area Number |
25420674
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Maebashi Institute of Technology |
Principal Investigator |
星 和彦 前橋工科大学, 工学部, 教授 (70269299)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 『市民建築論』 / 古典建築 / 中世建築 / 歴史 / 英国 / 18世紀 |
Research Abstract |
18世紀後半の英国新古典主義建築を代表する建築家で著述家のひとり、ウィリアム・チェンバーズ(1723-96)の『市民建築論』(初版1759年、改訂1791年)に関して、1791年の改訂版を基本に、1759年の初版も対照して、解題を進めている。 『市民建築論』において、古典主義建築の解説の導入ならびに基礎となる、「緒言」、「建物の起源と発展について」、および部分的に「建築のオーダーを構成する諸部分について、その特徴、適用、装飾について」を検討し、次のような結果を得た。1)始源状態の小屋という導入部分は共通し、起源として理念的なものであるが、1791年版では理念と実際の間を埋めるようにエジプト建築が引用されている。2)ギリシア建築の具体的記述は1791年版にのみ表れ、オーダーの象徴的な意味だけでなく、実践的意味を組み込むことを意図した。この点に関しては、職能に関わる判断とみても妥当その評価は肯定的ではないが、建築の発展の議論には、背景としての社会にも眼を向ける姿勢が読み取れ、18世紀後半の建築史的知識の拡大の差異が両版の議論の進めかたに反映している。3)ゴシック建築にも視点を拡げている点で、建築の発展を評価する軸としての構造に注目していることが理解できる。4)規模という視点から、古代建築からゴシック建築までを構造という点から評価し、とくにゴシック建築は、その軽快さや大胆さは古代には到達できないとみなされている。5)ゴシック建築では大規模で壮麗という評価はあったが、それを実質的に実現する建築構造や社会も、建築の評価として重要性をもっていた。 チェンバーズの『市民建築論』は、厳しいギリシア建築批判で知られ、感性的とみられることがある。しかし、建築の歴史的な観察から起源に対する視点、また建築の評価における構造への視点など、評価のもつ論理性も注目されてよいように思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成25年度は『市民建築論』(1759、1791)の解釈と解題を軸に、そのほかのチェンバーズの建築書の検討を進めることを予定した。とくに中心とするのは、『サーレィのキューの庭園と建物の平面図、立面図、断面図、透視図』(ロンドン、1763)としていた。これは、本書がチェンバーズの自作の解説となっており、したがって単に文献史料の解釈にとどまらず、建築作品分析も検討の対象となるからである。 『市民建築論』に関しては、「緒言」などについて今年度の目的を一定程度進捗させられた。しかし、『サーレィのキューの庭園・・・』については、図版の検討は進めているが、本文との関連の検証はまだ十分とはいえないため、レポートとしてまとめるにいたらなかった。他方、もうひとつチェンバーズの著作の分析・検討を進めていくとした『東洋風造園論』(ロンドン、1772)に関しては、これまで進めてきたバティ・ラングレィの『古代の石工術』の分析を継続するなかで、両者の造園理論に着眼し、比較して検討を加えている。ラングレィについては一定の進行をみたが、チェンバーズの著作の解題に関しては、予定していた進捗がみられなかった。ラングレィの著作が膨大で、その整理に時間をとられているためである。なお、ラングレィについては、研究代表者に加え、研究協力者も継続的に取り組んでおり、研究協力者がラングレィの造園術に関してすでに発表しているので、『東洋風造園論』に関しては、研究協力者とともに今後作業を進めていく。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は、第一の課題にあげた『市民建築論』の解釈と解題を1791年の改訂版を主体に進めていくとともに、建築書としては同時期のアイザック・ウェアの『建築全書』(1756)との比較・分析にも着手していく。これには先行するジェイムズ・ギッブズの『建築部材策図法』(1732)の検討も加える。ウェアとギッブズについては、すでに研究を進めてきたので、これらの蓄積ももとに、さらに英国経験論哲学からの影響についても考察の対象に加え、18世紀後半の英国新古典主義建築の展開と検討する著作の位置づけについても、結果がだせるようにしていく。 他方、研究の進捗が遅れているほかのチェンバーズの著書に関しては、『サーレィのキューの庭園と建物の平面図、立面図、断面図、透視図』の解題を最重要課題と捉え、検討を進めるだけでなく、レポートとしてまとめていく。もうひとつの『東洋風造園論』に関しては、研究協力者との連携を再検討してうえで、作業を進めていく。なお、当初26年度に検討することを考えていた、チェンバーズの『中国風建物、家具、衣裳などの意匠』(ロンドン、1757)については、『東洋風造園論』の検討の進捗をみながら進めていくこととし、したがって、その解題が最終年度である27年になることも配慮していく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究計画では変更は生じていないが、物品費に一部執行されない額があった。 次年度の物品費にくわえる。
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Research Products
(2 results)