2014 Fiscal Year Research-status Report
英国18世紀の新古典主義建築思潮における経験論哲学の影響に関する考察
Project/Area Number |
25420674
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Research Institution | Maebashi Institute of Technology |
Principal Investigator |
星 和彦 前橋工科大学, 工学部, 教授 (70269299)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | チェンバーズ / 『市民建築論』 / 古典的比例論 / 感性的批判 / 経験論哲学 / 英国 / 18世紀 |
Outline of Annual Research Achievements |
18世紀英国建築におよぼされた経験論哲学の影響の検討について、前年から引き続きW.チェンバーズの『市民建築論』(改訂版、1791)の分析をおこなった。今年度は、部屋の大きさの記述について取り上げ、チェンバーズの言説の整理と、ルネサンスの建築書としてパラーディオの『建築四書』(1570)、チェンバーズと同時代のウェアの『建築全書』(1756)との比較をとおして、チェンバーズの特徴について明らかにしようと試みた。 チェンバーズは、建物の建設状況を勘案し、部屋の大きさに比例を適用しようとしたとみられる。広さの基準に、承認する1:1から2:3までの比が美しいとするが、比と数に美的判断をまず求めたパラーディオやその継承が明確なウェアとは異なり、部屋の目的や英国の気候なども含めて建物を検討している。この部屋の目的への意識は、建物の種別をある程度念頭におき広さを検討するところに示される。したがって、部屋一般を対象に検討を進めたのではなく、まずカントリー・ハウス、つづいて都市住宅の部屋を検討対象としていたことが読み取れる記述となっていた。都市住宅では、カントリー・ハウスと異なり、各階の階高に制限が生じ、各部屋の高さに対する選択の幅は狭くなる。そこで、平面の広さと高さをあえて関連づけることなく、部屋の大きさを考えているのである。チェンバーズは、古典的比例論を感性的に批判しいただけでなく、建物を建て、使う目的を、またどのようにみえるかを比例的な判断にどのように組み込むのかについて、考えようとしていたと思われる。 『市民建築論』の部屋の大きさに関する記述は、古典的比例論への批判が基礎となっているが、単に美的な判断に関わるだけでなく、建物の建てられる状況や気候、部屋の目的や使われかた、そしてみえかたをも含む視点からなる。この点では、古典的比例論の枠組みを意識していたウェアと異なる指向であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
26年度までにチェンバーズの『市民建築論』の解釈と分析を終了させる予定であったが、2つの理由から達成できなかった。ひとつは、改訂版(1791)に初版(1759)も加えて、平行して検討を進めているためである。しかし、チェンバーズへの18世紀英国経験論哲学の影響を考察するためには、チェンバーズの執筆時期も考えると初版も重要性をもつ。チェンバーズの言説は初版と改訂版が大きく異なる、前年度に検討した建築の起源論のような章と、初版時に理論をほぼ確立していた部屋の大きさのような章とで差異があり、その分析・検討も進める必要がある。そこで、『市民建築論』の解題は、研究終了年度まで引き続き進めていく。これに関連しては、D.ヒュームの『人間知性論』を、とくに経験と美に関しての言説の分析もチェンバーズとの関連で重要であり、この点も多少遅れていると認識している。 理由のもう一点は、チェンバーズの視点を明確化するためのほかの建築書の検討範囲が、多少広がっているためてある。B.ラングレィの検討も継続しており、この成果もまとめる必要があるが、今年度はまとめられなかった。また、これまでの対象に加えH.エムリンの『建築の新たなオーダーへのひとつの提案』(1781)も考察した。古典的理論と中世的意匠をもつオーダーの考案というエムリンの試みは、古典的比例論と感性的といえる表現の統合を目的としており、チェンバーズの方向性検討に重要と判断したからで、そのため、全体の進捗が遅れたと判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
18世紀の英国建築を特色づける、古典主義建築理論のもつ理性的主題と、比例論に関する感性的、経験論的指向との相関性の実態の解明を試みることが、本研究の目的である。この過程をとおして、英国の新古典主義建築思潮と同時期の経験論哲学の関係性をふまえることで、英国の新古典主義建築の特質を明らかにする、研究の枠組み自体は維持していく。そして全体の研究の統括をおこなう。 研究全体の枠組みでは、チェンバーズの検討に加えて、同時代の建築家であるR.アダム、チェンバーズのあとにくる存在としてJ.ソーンとの、比較・検討をおこなう。その対象としては、おのおのの建築家の著作の主題や内容と論述方法と、また新古典主義建築の領域という視点があげられる。この研究の進捗の過程では、作品の検討のためには、現地踏査が必要となり、そのの可能性についても考えていく。 他方、チェンバーズの論理の構築には、英国経験論哲学の影響がどのようにみられるか明確にしていきたい。この比較については、その代表者のひとりであるD.ヒュームのとくに重要な著作とみなせる、『人間知性論』との方法論に関して比較・検討を試みる。この課題に関しては、文献研究を主体として進めていく。経験論哲学との比較から、建築と同時期の社会思想との関係をより明確にできると考えられる。また、英国の18世紀建築、とくに長い18世紀といわれる18世紀から19世紀にかけての建築全般を再考する指向が現在明らかになり始めている。その動きに間する、建築書を基本にした検証とする。
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Causes of Carryover |
26年度は、大学での学務の状況から、文献研究が主体とすることとなった。したがって、予定していた現地踏査が実施できなかった。また、調査費用も考えていたため文献購入も予定より下回った。その結果、とくに調査費用に想定した部分の支出がなされなかったため、差額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度は、研究方法で、現地踏査が必要となるため、昨年度実施できなかった調査をおこないたい。また、昨年度に購入できなかった文献史料についても購入を検討したい。
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