2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25420676
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
大上 直樹 大阪市立大学, 都市研究プラザ, 特別研究員 (60411732)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 裏目尺 / 度量衡 / 規矩術 / 大仏様 / 法隆寺夢殿 |
Research Abstract |
本年度は主に規矩術における裏目尺と表目尺の関係について検討をおこなった。規矩術では隅木は真隅(45度)に納まっているため、隅木における諸寸法は裏目尺で計画するのが一般的であるが、なかには表目尺で計画されているものも存在することはこれまでの研究で指摘したところである。今年度はその内容をさらに精査・考察したもので、隅木を表目尺で計画するものは、平安時代中期以前の古い遺構、振隅の遺構、その他の遺構に分類することが出来ると考えられた。特に振隅は45度に振れていないため隅木の計画において裏目尺を使う意味はなく、表目尺が使われるのが一般的であったと結論付けられた。 また六角堂や八角堂の規矩術も振隅として扱われるが、法隆寺夢殿、同西円堂(ともに八角堂)は裏目尺が使われているだけでなく、通常表目尺を使う諸寸法も裏目尺で計画されていることを詳細な作図によって確認することが出来た。つまり法隆寺の八角堂は規矩術だけでなく建物全体が裏目尺で計画されている裏目建築の事例であると指摘することが出来た。これはまったく新たな技術史上の知見であろう。法隆寺には外にも裏目尺で計画されている可能性のある遺構があり、新たな裏目建築が発見されることが期待出来る。 その他大仏様の初期の遺構である東大寺南大門、開山堂、鐘楼の計画技法についても再考をおこなった。それらは共通して全体が黄金比で出来ていて基本のプロポーションは極めて似ているだけでなく、裏目尺によって諸寸法が決定されている裏目建築である可能性が高いことがやはり詳細な作図を基にした検討によって推定された。 なお本研究の仮説の提示と事例の報告をおこない研究内容を多角的に検証するために、建築史研究者、文化財修理技師などを対象に、勉強会を5回、研究会(於仁和寺)で実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は特に規矩術における裏目尺と表目尺の関係について検討をおこなったが、規矩術については、すでに先の研究成果があったため、その精査、検討をおこなうことで、上記の通り一定の成果があったと考えている。 また度量衡における裏目尺の位置付については、何故通常の表目尺ではなく裏目尺を使用するかという基本的な疑問について文献調査を平行しておこなっているが、現在まで森文庫(徳島県立図書館蔵)に、それを証する可能性がある文献を確認した他、度量衡に関する近世文書にもそうした関係性を示すものがあることから、現在も収集と整理をおこなっている。 その他、裏目建築の可能性のある遺構については修理工事報告書などを基礎資料として、裏目尺の三角スケールを作成し図面を検討している。さらに実際に詳細な作図をおこなって全体の基本計画から実施設計の設計工程について検討をおこなっている。 こうした検討によって厨子・宮殿や神社本殿、仏堂、門などの一部で裏目建築を確認しているが、実際には裏目建築は非常に多くの遺構が存在する可能性が浮かび上がってきている。この点において、全体の工程の面からは研究は大いに進捗していると言えるであろう。
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Strategy for Future Research Activity |
裏目建築は文化財建造物修理工事報告書において数例が報告されているだけで、稀有な存在と考えられていた。しかし検討の結果、諸寸法が裏目尺の方が切れのいい値になる裏目建築が存在するだけでなく、歴史的建造物の設計プロセス自体を再考することで、裏目尺の存在が明らかになる可能性が考えられるようになってきた。 具体的に言うと現在考えられているような枝割制、つまりはじめに垂木間隔を定め基準とし、それに垂木数を乗じて平面寸法が決められていくという設計プロセスではなく、基本設計として建物全体の全体規模を定めてから、実施設計として全体規模を按分等によって柱間寸法等が決定され、垂木割は柱間を垂木数で割込むことで最後に求められる設計プロセスである可能性が浮かび上がってきた。そしてこの基本設計における全体規模の計画において裏目尺が使われていると考えられる事例が幾例も確認することが出来た。 この場合、基本設計である建物全体規模の寸法は背景となる寸法であることから直接確認し難い値であるが、それを検討するためには時間がかかるが詳細な図面を自らCAD作図して検討するのが正確で効率的であることが判明した。そのため図上の検討で裏目建築の可能性のあり且つ詳細な図面のあるものは今後調査対象として検討する予定であるが、この検証は大いに成果が出るものと思われる。 また法隆寺夢殿や東大寺の大仏様の遺構も裏目建築の可能性が高く、日本建築技術史上重要な課題であると考えられ、より詳細に検討して論文としてまとめる予定である。
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