2015 Fiscal Year Research-status Report
モルディブ諸島他の歴史的建造物調査―インド洋建築史の基盤形成
Project/Area Number |
25420680
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
深見 奈緒子 早稲田大学, イスラーム地域研究機構, その他 (70424223)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | イスラーム / 港市 / インド洋 / モスク / ミフラーブ / 移動 / 建築 / 土着性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、研究代表者が日本学術振興会のカイロ研究連絡センター勤務になったため、2014年度から延期していたモルディブ諸島調査を断念した。モルディブ諸島のモスク建築に関しては、2013年度の調査成果を図化を済ませ、マールーフ・ジャメールの「モルディブのモスク」(2015年出版、英文)に提供した。 一方、インド洋海域にのこる14世紀から16世紀にグジャラート州のキャンベイ港からインド洋各地に運ばれ大理石細工に焦点をあてた。これら石製品はムスリム用で、モスクの礼拝の方向に設けられるミフラーブと墓石である。実例を既往文献および今までの調査のなかから収集し、それらに対して考察を行い、学会発表および論文にまとめた。モルディブにのこる1314年のグジャラート産大理石細工のミフラーブにはランプ文様があり、形はあたかも墓碑ながらモスク建立の碑文が掲載され、キャンベイにおける輸出石製品の早い事例であることを、その文様の変遷からも明らかにした。 なかでも、ランプの文様に着目し、モスクの礼拝の方向に設けられるミフラーブとの関連性を考えた。イスラームでは聖典クルアーンの光の章や「神は光である」という考え方によって、遅くとも10世紀にはミフラーブにランプ文様が刻まれるようになった。インド内陸部との文化交流にも着目し、14世紀から16世紀初頭のインド亜大陸にのこる建造物も比較対象に据えた。グジャラート州、デリー、ベンガルのモスクにも、ミフラーブ内に数多く吊り下がり文様が描かれる。西アジア起源のランプがインド洋海域を通して伝播するに伴い、当初の吊るされたランプの表現が、インド亜大陸では香炉に変容し、モルディブでは鍵へと変遷することを明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本来は、インド洋界域島嶼部全体を対象にイスラーム教徒のモスク、墓建築、宮殿建築のリスト化を目的としたが、島嶼部の実地調査には時間と資金がかかり、また日本人の調査を受け入れない調査地もある。それゆえ、島嶼部の悉皆的な調査は、今後の課題として残ったままである。しかしながら、2015年度には、インド洋海域を動いた石製品を丹念に分析することにより、港市の土着文化との関わり、内陸部との関わり等もわかってきた。 当初の目的のひとつは、大陸の文化と島嶼部の文化の比較にあった。2013年度にはモルディブ諸島を調査し、その整理の結果から、2014年度には大陸、大陸近傍の島々、沖合の島々では、大きな違いがあることを明らかにした。さらに、2015年度にはそれらをつなぐ形で、吊り下げられた文様の変遷に着手し、ランプ、香炉、鍵という変遷を明らかにすることができた。西アジアにおけるランプが、インド亜大陸においては香炉に変容し、それが大陸内で共通理解となる。また、モルディブ諸島にそのモチーフが伝わったことは明らかで、それが扉に鍵文様に変遷したのである。 また、2013年のモルディブのモスク調査を発端に、公益財団法人のユネスコ・アジア文化センターの2015年度の奈良研修に、モルディブで私設博物館の学芸員として働くバーデウ氏を招聘することができ、今後も、モルディブの木造椰子葉葺建築に対する日本との技術協力へと発展する兆しを見せている。モルディブのサンゴ石モスクでは、伝統的な椰子の葉葺きの建築が、20世紀後半以後、トタン葺きに変わってしまっている。日本の茅葺き技術を導入することで、椰子の葉葺きの復活が可能となればと目論んでいる。これらも本研究の大きな副産物である。モルディブではいまだ文化遺産の保全がうまく機能していない状況にある。
|
Strategy for Future Research Activity |
インド洋全域の島嶼部を射程とした調査研究には、かなりの時間を必要とするので、当初の目的であったリスト化については、現在までの調査と既往文献によるものを考えている。また、2016年度には、比較的現地調査が容易いインド洋のスワヒリ地方調査を予定し、その結果を加える。 島嶼部の建築に注目した理由は、土地から動くことができない建造物に変容をもたらす原因の一つは、外界からの影響で、島嶼部という限られた陸地にはその影響がより強く、影響の源泉を考えることが大陸部に加えて比較的容易いと仮定したからである。また、大陸部と島嶼部では、受け入れたものの土着化過程が異なるのではないかと仮説を立てた。モルディブの歴史的建造物を調査したことにより、その仮説は概ね明らかとなった。 これからの課題として、様々な人々、モノ、情報が動いていく道、経路に注目することである。建造物の建てられる土地や、建造物はある種の結節点であり、その間には経路が張り巡らされる。この経路の集合を世界の建築のくくりの一つとして設定することが、世界の建築史をとらえる上で重要であると考えている。そして、その経路の集合は一つの土地や地域に定まらず、時代によって移り変わっていく。とはいえ、インド洋、地中海、シルクロードなどの大きな幹線は、時代を超えて重要である。こうした太い動脈を中心とした世界の建築経路網の歴史を構築していきたい。 今までの建築史は、日本建築、中国建築という土地をくくりとするもの、イスラーム建築や仏教建築のようになんらかの宗教をくくりとする。この枠組みを超えるために、まずインド洋を土台として、建築の歴史を組み立てていく。
|
Causes of Carryover |
2015年度に研究代表者がJSPSカイロ研究連絡センターに赴任したため、当初予定していたモルディブ調査を実施することが不可能となった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
モルディブ調査は、2016年度使用額では賄えないため、スワヒリ調査を実施する。
|
Research Products
(12 results)