2014 Fiscal Year Research-status Report
ツガ年輪による近世以降の建造物の年代測定および用材産地推定手法の確立
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25420685
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Research Institution | Nara National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
藤井 裕之 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 埋蔵文化財センター, 客員研究員 (30466304)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ツガ / 近世 / 近代 / 建築部材 / 年輪パターン / 文化財 / 四国産 / 産地推定 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度も、ツガ年輪が使われている近代以降の建造物の探索を継続し、とりわけ近畿周辺と関東・甲信越地方において重点的に活動した。また、ツガと、これに関連する樹種を対象とした年輪調査は、昨年度までに年輪計測用画像を取得していた分の計測、分析(愛媛県)1件、新規分の画像取得と計測、分析(北海道、奈良県)3件、外部依頼分2件を実施した。 懸案となっている、ツガの古材と現生材で別々に作成してきた年輪パターンの相互接続は、ツガ単独では今年度も実現しなかった。しかし、大阪市内で保存修理工事が行われた近世建造物のヒノキ年輪を調査したところ、ヒノキの暦年標準パターンと、既報した高知城のツガ現用木部材の年輪パターンの両方と照合が成立する材が見いだされ、2007年の奈良県當麻寺大師堂の調査以来、ツガ古材に仮に与えてきた年代が再現された。これにより、ヒノキとツガで同じ年代が得られた古材は2組目となり、浮遊状態にあったツガ古材と、伐採年のわかる現生材との接続が、半ば実現したことになる。 一方、ツガの分布域から遠く離れた北海道に関し、明治20年代の建築とされる江差町旧中村家住宅のツガ材を調査した結果、愛媛県内子町上芳我家住宅をはじめとする四国産ツガの年輪データと照合が成立し、樹皮型の柱材に建物の創建にかかわる考証と整合する年代が得られた。また、四国産以外の年輪データとは、ツガ以外のものも含め、いずれも照合が不成立となることから、材の産地は四国を中心とした地域である可能性が示唆される。現在のところ、九州のデータが十分ではなく、今後の蓄積を待って再検討する必要があるが、いずれにしても、当時の木材流通に関して貴重な知見が得られた。 なお、昨年度計測、分析をおこなった上記の上芳我家住宅、および高知県大豊町旧立川番所書院の調査成果を、奈良市で7月に開かれた日本文化財科学会第31回大会で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、ヒノキを介した全く別の経路により、これまで間接的ながらもツガ古材に与えてきた仮の年代を再現することができた。さらに、もともとツガが分布していない北海道に計測対象を求めることにより、明治期の木材流通状況の解明につながる成果が得られ、とりわけ四国産材にかかわる産地推定の見通しが立てられた点で、大きな成果を収めることができた。また、各地の探索を続けるなかで、年輪の計測対象とすべきものが予想以上に残っていることが把握でき、問題は試料が実在しているかどうかの心配よりも、調査の実現可能性自体に移行しつつある。とくに、九州地方のデータについては、諸事情により必要性に比してデータ収集が遅れているのが現状である。このことを考慮して、区分(2)とした。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度に引き続き、年輪パターンに関する現生材と古材の接続をツガ単独で図ることをめざし、現在空白となっている1667年から1771年にかけての年輪をカバーする材が使われた可能性がある建造物の調査に努める。また、産地推定については、四国産の特定に見通しが立ったことから、今後は収集が遅れている九州に重点的に取り組むこととし、かねてよりのリストアップにもとづいて調査の実現をはかる。そして、四国と九州、四国と紀伊半島方面との年輪データの異同を明らかにする。
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Causes of Carryover |
1.海外の高額な年輪分析用ソフトウェアの購入を予定していたところ、想定を超える円安で、当初の計画よりも費用が嵩むことが判明し、計画を変更したこと、2.今年度実施予定の調査2件を諸事情により次年度送りとしたこと、3.今年度実施計画としていた探索1件の支出を、行程上の都合により自弁としたことによる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
調査2件については、遅くとも10月頃までには実現させる。また、次年度は最終年度であり、研究の総まとめを予定している。当初のソフトウェア購入計画分その他残余については、基本的には調査件数、とくに九州方面のものを増やすことによって対処したいが、分析の過程で年代の妥当性を別原理により検証する必要が生じた場合は、放射性炭素年代測定法等の委託を考慮に入れるなど、柔軟かつ効果的な使用をこころがけたい。
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