2013 Fiscal Year Research-status Report
遷移金属水素物の電子状態に着目した水素吸蔵特性の解明
Project/Area Number |
25420756
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
石松 直樹 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (70343291)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 水素貯蔵合金 / パラジウム / X線吸収分光法 / 電子状態 |
Research Abstract |
水素化特性において,パラジウム(Pd)は性質がよく似ている周期表の周辺の元素(RhやNiなど)とは異なり,唯一,常温常圧下で水素化する特異な性質をもつ.Pdは周期表で左隣の(4d電子数が一つ少ない)Rhと合金化すると水素化に必要な圧力(PH)が増加し,右隣のAgと合金化するとPHが減少することが知られている.室温での水素の含有量はPd-Rh合金では僅かに増加するが,Pd-Ag合金ではAgの増加に伴って単調に減少する.この水素化過程の傾向が合金中の平均d電子数に依存するのか,あるいは構成元素の特性に依存するのかは興味深い問題である.このため,Pd基合金の水素化特性を,X線吸収測定から求めた合金の電子状態と,X線回折から求めた生成熱の組成依存性から調べている. 平成25年度は広島大学の低温センターのX線回折装置を用いて水素化過程をその場観察するのと並行して,同じ装置で水素の圧力と合金試料の温度を制御できるように改造した.これを用いると,アルファ相とベータ相の2相共存が現れるPHとその温度変化を求めることができ,さらに水素化反応の生成熱を導出できる.現時点ではデータのばらつきが大きいが,おおよその傾向として,PdにRhを入れると水素化後の発熱量が減少し,Agを入れると発熱量が増加することが分かった.Rh側とAg側の発熱量の組成依存性には,おおきな傾きの相違はないと考えられる. また,平成26年度まで進めていたX線吸収測定の結果を,物理学会および放射光学会で発表した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
広島大学の低温センターのX線回折装置を用いて水素化過程をその場観察すると同時に,同じ装置で水素の圧力と合金試料の温度を制御できるように水素化セルを改造した.これを用いてアルファ相とベータ相の2相共存が現れる水素の圧力とその温度変化を求めることで,反応の生成熱を導出できるようになった.現時点ではデータのばらつきが大きいので改良の余地があるが,PdにRhを入れると水素化後の発熱量が減少し,Agを入れると発熱量が増加することが分かってきた.この結果とX線吸収スペクトルの結果と合わせることで,電子状態とマクロな熱力学的な物理量を合わせて水素化特性が議論できると期待される.このため,研究はおおむね順調に進展している.
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Strategy for Future Research Activity |
申請書の研究計画では,今年度は交流帯磁率測定によって水素前後の全状態密度の変化を測定すると記述していた.一方,これまで私が進めてきたXASの結果を参照すると合金試料の水素化は,試料の平均的なd電子数よりも,構成元素の個々の結合状態が水素化特性に強く関与すると分かってきた.このため,XASによる構成元素毎の結合状態の解析の方が,水素化特性の議論に有効と考えた. XASの結果によると,Pd-Rh合金の場合,両元素の4d電子バンドが水素化後に金属状態より多く占有され,同時に水素との反結合準位が形成されることが分かっている.水素と結合の結果としてRhはPdと共に同程度の電荷の移動が見られるが,詳細にみると,Rhは水素化後にPdよりも多くのホールを残している.この相違から,Rhは水素との結合がPdよりも不安定であり生成熱が減少すると考えられる.RuはRhよりも原子番号が一つ小さく,dバンドの空きがさらに多いのでこれを検証するのに適した元素である.Pd-Ru合金はPd-Rh合金とくらべてRuが少量でも,水素量が激減すると期待され,Ruは水素との結合がRhよりもさらに不安定になると考えられる.このことを元素選択的に電子状態がみられるXAS測定から検証する.また,水素化による生成熱の変化もXRDから決定する.実験終了後,すみやかにこの結果を論文化する予定である.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
学会参加のための旅費支給の申請に不備があり996円の残額が生じた. 996円の残額は平成26年度の学会発表(物理学会等)に有効に活用する.
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