2013 Fiscal Year Research-status Report
水中の疎水性表面間に働く長距離性引力の本質と起源の探究
Project/Area Number |
25420803
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
石田 尚之 岡山大学, 自然科学研究科, 准教授 (80344133)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 疎液性引力 / キャビテーション |
Research Abstract |
本年度は、まずフッ素系シランカップリング剤で疎水化したシリカ表面の表面間力を原子間力顕微鏡(AFM)で測定した。表面のナノバブルを除去すると、水中では約10~20 nmから働く、ファンデルワールス力より長距離の引力を観測し、この引力が真の疎水性引力といえることを確認した。またこの表面と親和性の著しく低いホルムアミドおよびエチレングリコール中でも、10 nm程度から働く、ファンデルワールス力より長距離の引力を確認した。このことから、水以外の溶媒においても水の場合と同様に、表面との親和性が低ければ、表面の疎液性に起因する付加的な引力が働くという事実を見いだした。また、引力は溶媒や表面の種類によらず、表面との親和性が同程度ならば、作用範囲も同程度であるという、極めて重要な事実を得ることができた。すなわちこの結果は、水中特有の現象と考えられていた疎水性引力が、水中にのみ働くものではなく、種々の溶媒で「疎液性引力」として一般化され得るという新たな知見を示すものである。 また温度やイオン濃度を変化させて測定したところ、この疎液性引力には両者の影響が見られなかった。また、重水中でも引力の有意の変化は観察されなかった。この結果から、引力の起源については、表面近傍での水の再配列等によるエントロピー変化や、表面の局所的な電荷の不均一に基づく静電相互作用ではないことが推測された。一方、粒子の表面への接近速度を変化させると、接近速度が速いほど引力の作用距離は短くなることを見出した。このことは、引力の起源として、疎水性表面間に挟まれた水が不安定になり、液体から気体へと相転移する蒸気相転移(キャビテーション)現象が有力であることを示唆するものと考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、有機溶媒中の測定から、水以外の溶媒中でも疎液性の引力が存在することを確認できた。また、水と有機溶媒とで見出された引力の起源として、液相のキャビテーション(蒸気相転移)が有力な候補であることを示唆する結果が得られた。今年度計画にあった、倒立型AFMと蛍光顕微鏡複合装置を構築では装置的な問題の解決のため進捗が遅れたが、来年度計画にあるイオン強度、pH や温度などの溶液条件の影響を今年度前倒しで検討し、「真の」疎水性引力の起源解明においてその候補が絞り込めたことから、計画は概ね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、今年度構築した倒立型AFMと蛍光顕微鏡複合装置により、相互作用測定と同時に溶媒の直接観察を実施することにより、キャビテーションの有無を確認する確認することに注力する。また、これと同時に、表面の疎水性と引力範囲の関係や、引力がなくなる境界の表面疎水度などを検討することで、現状のDLVO理論と疎液性引力との理論的な統合を図るための基礎データの取得に努めていきたい。
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