2013 Fiscal Year Research-status Report
リン脂質の巨大分子集合体を基盤とする新規フォトニックソフトマテリアルの創製
Project/Area Number |
25420840
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tokyo City University |
Principal Investigator |
黒岩 崇 東京都市大学, 工学部, 准教授 (60425551)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 自己組織化 / 表面・界面物性 / 分子集合材料 / バイオ機能材料 / フォトニック材料 |
Research Abstract |
研究代表者は、最近、リン脂質をはじめとする生体脂質が水溶液中で直径1ミリメートル以上にも及ぶ巨大な分子集合体を形成し、さらに周囲の環境に応じて特徴的な発色(構造色)を示すというユニークな現象を見出した。本研究では、この巨大分子集合体をベースとする新規な発色性材料の創製を目指している。 初年度(平成25年度)の検討では、本法における構造発色性リン脂質分子集合体の発現条件と、得られる集合体の構造および特性との関連を明らかにし、リン脂質分子集合体による構造発色性の発現機構の解明に向けた検討を行った。まず、リン脂質、コレステロールをはじめとする両親媒性脂質を含む有機溶媒相と、電解質を含む水相とからなる2相溶液系から穏やかな条件下で有機溶媒を除去する独自の自己組織化プロセスにより、直径が数ミリメートルに達し、かつ鮮やかな発色を示す巨大分子集合体を形成できる手法を確立した。さらに、本分子集合体においては、温度および水相の組成により、その形状および光学特性が変化することを見出した。特に、構造発色性の発現には外水相中の電解質濃度が顕著な影響を及ぼすことを明らかにし、当初目標であった青色(波長約450 nm)~淡赤色(波長約650 nm)にわたる波長範囲で色彩を制御できた。また、小角X線散乱測定による相構造評価についても、本研究で実際に得られた分子集合体の分析を通じて実験系および測定条件を確立することができ、今後、温度や電解質濃度をはじめとする様々な要因による集合体の構造変化を詳細に調べる準備が整った。また、可視光の反射特性を解析するための実験装置を構築し、本分子集合体の発色挙動の評価を行ったところ、発色性分子集合体内部に200~250 nmの周期をもつ微細構造が存在することを示唆する結果が得られ、発色メカニズムの解明につながる有意義なデータを得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の開始年度として、実験設備の立ち上げと、本研究で検討する様々な実験・解析の手法の確立に関しては、予定通り実施することができた。また、研究開始時に目的としたリン脂質を主成分とする巨大分子集合体の作製手法についても、予備実験の成果も踏まえたかたちで十分確立できたといえる。実験の立ち上げがスムーズに進行したため、前述の「研究実績の概要」でも述べた通り、発色性リン脂質分子集合体の形成条件について初年度から有用な知見を得ることができた。さらに、開始当初目標としていた「青色(波長約450 nm)~淡赤色(波長約650 nm)にわたる波長範囲での色彩の制御」が可能となる条件も明らかにすることができた。小角X線散乱測定をはじめ、微細構造の評価に必要な機器分析手法についても種々の測定条件を確立することができ、開始1年目として十分な成果が得られていると考え、「概ね順調」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
リン脂質からなる巨大分子集合体の構造および特性をさらに詳細に評価し、新規フォトニック材料への展開の指針を得る。特に、ソフトマテリアルの特徴である外部環境への応答性を活かしたフォトニック材料を実現するために、各種機器分析手法を駆使し、リン脂質集合体の微細構造や諸物性と光学特性との関連を明らかにし、発色性能を制御するための基礎的知見を収集する。初年度に確立した小角X線散乱測定に加え、広角領域のX線散乱測定も同時に行うことで、分子集合体における分子の集合状態に関する情報が得られると期待される。これに、偏光顕微鏡や電子顕微鏡による各種観察結果を照合することで、分子集合体の光学特性の起源を明らかにすることを目指す。さらに、初年度に構築した発色特性解析装置を利用して、温度や電解質濃度といった外部因子による発色挙動の変化の様子を詳細に調べることで、フォトニック材料としての応用に向けた諸特性の評価・検討を行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
リン脂質を主成分とする分子集合体の発現条件の解明に向けて、開始当初は、脂質組成、温度、電解質濃度およびpHなどの諸条件を試行錯誤的・網羅的に検討することを想定し、さらに予定通りに進まない場合の追加条件も勘案して消耗品費を計上していたが、作業仮説の見通しが良かったこと、および装置の工夫による評価作業の効率化等により、試薬類の使用が抑えられたことが一因である。加えて、研究成果の発表に際し、参加したシンポジウムの主催者から参加費および旅費の補助を受けられたことが旅費支出の減少につながった。これらの結果として、20万円弱の次年度使用額が発生した。 初年度の検討で明らかになった事項を踏まえ、より効率的な実験の遂行を可能にするため、複数のサンプルを並列的に調製するための消耗品類(ガラス器具、少額の理化学機器等)に充てることを計画している。
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