2015 Fiscal Year Research-status Report
神経幹細胞の分化に際し速やかに発現変動する遺伝子の脳組織形成への関与
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25430035
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
川口 綾乃 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (90360528)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 発生・分化 / 神経科学 / 神経前駆細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
哺乳類大脳の発生過程では神経幹細胞の分裂によって誕生する娘細胞のうち、一部は中間前駆細胞やニューロンへと分化し、脳室面から離脱して外側へと移動する。このように分化した細胞が脳室面から速やかに移動し出て行くことは、限られた領域である脳室面で、神経幹細胞が効率的に増殖を繰り返すために必須の現象であるが、その詳しい分子機構は明らかとなっていない。本研究で神経幹細胞が分化に伴って早期に変化させる遺伝子のひとつを過剰発現させると、細胞の分化状態には影響を及ぼさないまま全て脳室面から離脱した。ノックダウン実験を行ったところ、分化細胞の脳室面からの移動が遅延すると共に、脳室下帯にあるoRG(outer-radial glia)様細胞の出現頻度も低下することがわかった。このことから、本分子がoRG細胞の誕生にも関係する可能性が示唆された。 一方、神経幹細胞は発生時刻の進行に伴い分裂パターンと生じるニューロンのタイプを同時に変化させていく。このような神経前駆細胞の時間軸にそった性質の変化が、どのような仕組みで行われているのか、これまで明らかとはなっていなかった。そこでまず発生時刻の異なる一つひとつのマウス神経前駆細胞の遺伝子発現に基づいて同定した「時間軸遺伝子」を同定した。これらを指標に、発生途中のマウスの脳の中で前駆細胞の細胞周期進行を止めても、引き続き変化していくこと、細胞周期停止を解除後に、前駆細胞は正しい発生の時刻に応じたタイプのニューロンへと分化することを明らかとした。これらの実験などから、細胞周期を止めても、神経前駆細胞内では発生時刻を刻む「時計」が進んでいくこと、この個々の細胞内にある仕組みと細胞外からの調整の両者が協調して、発生時期に応じた正しい神経前駆細胞の振る舞いを決めていることを明らかとした。本研究成果はNature Communications誌にオンライン出版された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
神経幹細胞の発生時期に応じた遺伝子発現変化と細胞周期進行に関しては、昨年度投稿中であったが、査読者から要求され、アデノウイルスを用いた培養細胞での組み換え実験と神経幹細胞のクローナル培養など、本年度は多数の追加実験を行った。結果、胞周期を止めても、神経前駆細胞内では発生時刻を刻む「時計」が進んでいくこと、この個々の細胞内にある仕組みと細胞外からの調整の両者が協調して、発生時期に応じた正しい神経前駆細胞の振る舞いを決めていることを明らかとすることができた。成果をまとめた論文はNature Communication誌にオンライン出版され、形の見える成果となったことは大変良かった。 一方、上記論文の追加実験と論文執筆に時間を要したこともあり、 分化早期に発現する遺伝子の機能解析は若干遅れている。これまでの研究から、本遺伝子の過剰発現によってみられる細胞移動をタイムラプス観察したところヒトなどより高度な脳組織構造を持つ生物種の発生期にみられる神経幹細胞の一種oRG (outer radial glia)の移動様式に酷似していることが観察されていた。そこで今年度はin vivoノックダウン実験を行い詳細に解析を行ったところ、マウスでも本遺伝子の発現阻害によって脳室下帯にあるoRG様細胞の出現が有意に減少するという結果が得られた。oRGがより多く存在することが報告されているフェレットでの本遺伝子の機能を評価したいが、現在siRNAを設計・効果確認中の段階であり、機能実験自体をまだ行なえていない状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
神経幹細胞の発生時期に応じた遺伝子発現変化と細胞周期進行に関する論文の追加実験と論文作成に予想外に時間を要したため、補助事業期間の延長を申請し承認された。今年度は、分化早期に発現が上昇する遺伝子がフェレットのoRGの誕生に関与している可能性について、ノックダウン実験を行い検証する。フェレット胎児脳組織は保存済みであるので、そこからトータルRNAを抽出後cDNAを作成し、フェレットのターゲット遺伝子をクローニングした上で、本配列に対する効果的なsiRNAを複数の中から選択する。決定した配列を用いてフェレット胎児脳へのエレクトロポレーションを行い、各種マーカーの発現を比較検討して、フェレット脳における本分子のoRG産生への関与を検討する。得られた成果を学会で報告する。
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Causes of Carryover |
神経幹細胞の発生時期に応じた遺伝子発現変化と細胞周期進行に関する論文の追加実験と論文作成に予想外に時間を要したことにより、分化早期に発現開始する遺伝子の各種実験動物を用いた生体内での機能解析実験のサンプル数を十分にとることができなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
消耗品代としてcDNA合成とsiRNA合成のための試薬代、実験用動物購入費、siRNA効果確認実験のための細胞培養用プラスチック器機と培養用試薬、遺伝子導入用試薬を購入し研究を遂行する予定である。
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Research Products
(2 results)