2013 Fiscal Year Research-status Report
胎児期における抑制性GABAシナプスの構築と呼吸リズム
Project/Area Number |
25430066
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
清水 千草 琉球大学, 医学(系)研究科(研究院), 特命助教 (70435072)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | KCC2 / 細胞内Cl-濃度 / 延髄 |
Research Abstract |
胎児は母体を離れ外界に出たとき、オギャーと泣き、呼吸を始める。生直後、呼吸をすぐに開始できるよう、胎児は正しい呼吸リズムを周到に準備している。この呼吸リズム形成の鍵となる分子として抑制性神経伝達物質であるγ-アミノ酪酸(GABA)に着目し、呼吸を司る延髄において、胎児期の抑制性GABAシナプスの構築と呼吸リズムの関連を解明することを本研究の目的とした。 呼吸リズムの形成過程を明らかにするため、胎齢16日、18日、生後0から7日の延髄領域を含む急性スライス標本を作製し、人工脳脊髄液のK+濃度を8mMとし、生じた呼吸リズムを舌下神経核より記録した。その結果、1分間あたりの呼吸リズム数は胎齢16日から生後0日と有意に増加したが、その後ほとんど変わらなかった。GABAを投与した場合には、GABA投与前と比較して、胎児期には呼吸リズム数は減少したが、生後0日から2日までは変化はなく、生後3日以降有意に増加した。 GABAは発達期の脳や神経損傷の際に、抑制性ではなく興奮性に働くことが報告されている。これは細胞内Cl-濃度に依存することが知られ、細胞内のCl-を細胞外へと排出し、細胞内Cl-濃度を下げ、GABAの応答性を興奮性から抑制性に導くK+-Cl-共輸送体(KCC2)の発現が重要な役割を果たす。KCC2の阻害剤を投与すると、胎児期では呼吸リズム数は増加し、生後3日以降は減少することを明らかにした。胎生18日から生後7日の延髄を含む凍結切片を作製し、KCC2について免疫組織化学法を行ったところ、舌下神経核でのKCC2の発現が徐々に増加していくことがわかった。 このように出産を境に胎児期と呼吸リズムやGABAに対する応答性に変化が認められることは出産時における呼吸不全を考える上で意義深いものであると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要で報告したように、申請書の2年目の計画にあたる呼吸リズムの形成過程について研究に着手し、胎児期のみならず生後7日まで結果を得て、日本神経科学会でその一部を既に発表した。さらに、KCC2に対する阻害剤やGABAの投与についても行い、有意な増減を認めた。この結果は、3年目に計画しているGAD、VGAT、KCC2などの遺伝子欠損動物を用いた研究につながると考える。 胎児期の延髄で呼吸リズムの形成に必要な抑制性GABAシナプスがどのように構築されるかについて、胎児期から生後7日までの呼吸リズムの変化と薬剤投与の結果から、細胞内のCl-を細胞外に排出し、GABAを抑制性に導くKCC2について、特に着目し、免疫組織化学法によりその発現及び局在変化を調べ、生後に向けて舌下神経核で増加していくことがわかった。一方、GABAの生合成酵素であるグルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)、小胞型GABAトランスポーター(VGAT)について、及び胎齢18日以前についてのKCC2の発現については、さらに免疫組織化学法を用いて詳細に調べていく必要性がある。 これらのことから、3年間という研究期間を考えた場合、おおむね順調に進展していると考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
胎児期の延髄で呼吸リズムの形成に必要な抑制性GABAシナプスの形成過程について、GABAの生合成酵素であるGAD、シナプス小胞にGABAやグリシンを充填するVGATについて免疫組織化学法を用いて詳細な検討をさらに加える必要がある。また、KCC2の発現についてもこれまでに調べた胎齢18日では既にKCC2の発現が認められたことから、胎齢18日以前の発現についても免疫組織化学法を行う。 延髄急性スライスを用いた呼吸リズムの計測についてはおおむね完了したと考えられる。その結果、細胞内Cl-濃度の発達変化により、GABAの応答性が変化することが示唆されたため、細胞内Cl-濃度を明らかにすることが必要である。よって、パッチクランプ法などを用いた検討を加える。 さらに、GAD、VGAT、KCC2の遺伝子欠損動物を用いて、呼吸リズムを計測し、GABAの応答性などを調べていく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究実績の概要に記したように、細胞内Cl-濃度を下げ、GABAの応答性を興奮性から抑制性に導くKCC2の発現が重要な役割を果たす。胎児期及び出生後の呼吸リズムを舌下神経核より記録した。その結果、GABAを投与すると、呼吸リズム数は胎児期で減少し、生後3日以降は増加した。KCC2の阻害剤を投与すると、呼吸リズム数は、胎児期で増加し、生後3日以降減少した。これは、舌下神経核における細胞内Cl-濃度が胎児期では高く、生後徐々に低くなることが考えられた。しかし、舌下神経核における細胞内Cl-濃度についての報告はこれまでになく、細胞内Cl-濃度を胎児期及び生後について比較する必要がある。 上記理由により、細胞内Cl-濃度を測定する必要がある。これまでに用いてきた延髄の急性スライスに、グラミシジン穿孔パッチクランプ法を適用する方法が、最も正確に細胞内Cl-濃度を測定できる手技と考えられる。細胞内Cl-濃度を測定するためには、マイクロインジェクターを用いてGABAを単一細胞に局所投与し、GABAの平衡電位を計測する必要がある。そのため、平成26年度予算と合算し、マイクロインジェクターを購入する予定である。
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Research Products
(8 results)