2013 Fiscal Year Research-status Report
弱毒化麻疹ウイルスの特性を利用した癌幹細胞を標的とする難治性乳癌治療法の開発
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25430152
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
松村 友美子 九州大学, 生体防御医学研究所, 研究員 (90594911)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 遺伝子治療 / 癌治療 / 分子標的薬 / 癌幹細胞 / ウイルスベクター |
Research Abstract |
核酸医薬の臨床応用においては、安全で効率的なドラッグデリバリーシステムの構築が不可欠であるが、麻疹ウイルスは生活環が細胞質にあるため、オンコレトロウイルスベクターで問題視される核内染色体への遺伝子挿入変異によるゲノム毒性のリスクを回避できる可能性が高い。また、ウイルスゲノム中に外来遺伝子を複数個組み込むことで、腫瘍細胞中へ治療遺伝子を運び、癌関連遺伝子発現を制御させるベクターとしても有望と考えられる。我々は、本来ワクチンとして開発され、安全性が確立している弱毒化麻疹ウイルスを用いた、新規麻疹ウイルスベクターの開発を進めてきている。 我々は安全性の確立された弱毒化麻疹ウイルスに乳癌特異的な二つの分子、すなわち腫瘍細胞標的化遺伝子と発癌関連遺伝子標的RNAiを付与し、この二重の腫瘍特異的機能を有する麻疹ウイルスベクターの有効性と安全性を最大限に活用した新規乳癌治療法の開発を目指している。 治療標的としている一つ目の分子は乳癌幹細胞性に関与し、他方もう一つの分子は乳癌幹細胞の発現にほぼ一致していることが既に報告されており、乳癌におけるこれら二つの分子の特異性を調べたところ、極めて高い相関性を持つことが確認できた。 次に、標的とする細胞表面分子対する一本鎖抗体(single chain Fv; scFv)遺伝子を導入することで、乳癌細胞のみに選択的に感染する新規組換え麻疹ウイルスの作製を進めるため、まずマウス及びヒトscFvの作製を試みた。さらに、ウイルスゲノム中に組み込んだ遺伝子標的RNAiにより標的遺伝子の発現を阻害するための最適な配列を検討した。次年度は、癌細胞の増殖を特異的に抑制する新たな分子標的薬剤の基盤を完成させる計画である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は乳癌幹細胞を標的とする組換え麻疹ウイルスベクターの新規構築のため、まず種々のヒト乳癌細胞株における二つの標的分子の発現およびその相関性の解析を行った。複数のヒト乳癌細胞株において、標的とする二分子の発現が確認され、特に増殖関連遺伝子の発現が高度であり、予後が悪い表現系とされるtriple negative型(HER2,エストロジェン受容体、プロゲステロン受容体すべて陰性)を示す細胞株(MDA-MB231, MDA-MD468)で両分子の発現が高く、またその発現に相関性があることが確認された。 さらに癌遺伝子Ha-rasを組み込んでいるCA1d細胞における両分子の発現解析をおこなったところ、これら二分子を発現する細胞が癌幹細胞の特徴とされるCD44loCD24hi分画と一致することが確認された。よって、これまでの結果から、これら二分子を標的化することにより、既存治療法に抵抗性の乳癌幹細胞に有効性を示す可能性の高いことが示唆された。 次に、体外免疫法による一本鎖抗体(scFv)の作製に取り組み、今回8クローンの候補ヒトscFvを得ることができた。さらに詳細なスクリーニングを行い、今回の標的治療に最適な一本鎖抗体を得たいと考えている。マウスscFvについても、ご厚意により、既に有効性の報告されているマウス一本鎖抗体の配列情報を得ることができた。これをもとに4つの候補マウスscFvを合成した。 また、標的分子発現阻害を目的とするshRNAについて、連携研究者は複数の配列候補をみいだしており、その情報をもとに、麻疹ウイルスに組み込むのに最適な条件を検討し、コンストラクトを決定した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の治療標的として用いられる二つの分子は、乳癌において発現が高く、またこの両分子ともに相関性を持って癌幹細胞とされる細胞内に発現していることが確認された。したがって、これら二分子を標的とすることで、高い治療効果が期待できる新規方法の開発の可能性が高い。標的分子の発現阻害により、抗癌剤に対する感受性が増強することが認められており、癌幹細胞を含む癌細胞の増殖制御が可能になるものと期待される。 次年度はまず、得られた一本鎖抗体を麻疹ウイルスに組み込み、最適なものを選択するべく、乳癌細胞の標的化の可能性を検証し、標的分子発現阻害に用いる麻疹ウイルスベクターの基盤を完成させる計画である。 さらに、目的のshRNA配列を麻疹ウイルスベクターに導入し、乳癌細胞への効果をin vitroおよびin vivoにおいて検証して、癌幹細胞を含む乳癌細胞の増殖制御を可能とする分子標的薬剤の最終的な完成を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
購入予定であった乳癌細胞株を、研究室で既に手配していたため、購入する必要がなくなった。 また、情報収集及び成果発表のため学会に出席したいと考えていたが、実験日程と折り合いが合わず、また特許取得を鑑み発表を控えたため、旅費が残るに至った。 次年度は、目的のウイルスベクターの構築のためにさらに試薬を必要とし、その有効性を確かめるために動物の購入が必要となるため、その費用に充てる計画である。 また、特許取得に関わる手続きが進展すれば、学会等の成果を報告する機会を得たいと考えている。
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