2014 Fiscal Year Research-status Report
哺乳類のフリーズドライ精子における高温耐性獲得に関する研究
Project/Area Number |
25430188
|
Research Institution | Asahikawa Medical College |
Principal Investigator |
日下部 博一 旭川医科大学, 医学部, 准教授 (60344579)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | アルカリ性 / 水素イオン濃度 / 染色体異常 / コメットアッセイ / フリーズドライ精子 / DNAダメージ / 受精卵 / 発生 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究初年度(平成25年度)において、フリーズドライ精子の室温長期保存(1か月以上)を可能にする条件を短期間で探す方法として、フリーズドライ精子を極端に高い温度(50℃)で3日間処理し、コメットアッセイと受精卵の染色体分析法で精子のDNAダメージを調べた。その結果、フリーズドライ精子を作製するときに使用する精子処理液(ETBS: 50 mM EGTA + 100 mM トリス緩衝液)のpHを水酸化ナトリウムの添加によって高めると、高温処理(50℃、3日間)したフリーズドライ精子のDNA(染色体)ダメージが抑制されることが示唆されたことから、平成26年度ではさらに多くの受精卵を用いて染色体分析し、それぞれのpH(5.0、7.4、7.7、8.0、8.2、8.4)ごとに高温処理による染色体異常の誘発率を確定した。高温処理による染色体ダメージをもつ受精卵の頻度は、pH 5.0からpH7.7において100%から56%にまで減少し、弱アルカリ性域のpH8.0以上ではほぼ一定の頻度(pH8.0~8.4で24%~26%)となった。一方、冷蔵(4℃、3日間)したフリーズドライ精子から作製した受精卵では、pH 5.0からpH7.7において99%から31%にまで減少し、pH8.0~8.4ではほぼ一定の頻度(14%~17%)となった。どのpHにおいても高温処理したフリーズドライ精子は冷蔵したものと比べて高い染色体異常誘発頻度を示したが、pH8.0とpH8.2においては両保存温度間で誘発頻度に有意差はなかった(P≧0.05)。 なお、弱アルカリ性のpH 8.4で作製したフリーズドライ精子を室温(28℃)で8か月間置いた場合、その精子を注入された受精卵の28%が妊娠18日目の正常胎仔にまで発生できることを確認した。この頻度(28%)は冷蔵で8か月間保存したフリーズドライ精子を用いた場合(55%)のほぼ半分であり、高温処理の染色体分析の結果を反映していた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成26年度では、弱酸性~弱アルカリ性のフリーズドライ精子作製用溶液(ETBS)で作製したフリーズドライ精子を高温で短期間処理し、コメットアッセイと染色体分析の結果を確定した。さらに、高温処理に最も強かったpH条件でフリーズドライ精子を作製し、室温長期保存(28℃、8か月間)した。その精子から作製した受精卵の着床後の発生能を確認できた。しかし、室温保存後の染色体分析が現時点で終了していないことと、低いpHで作製したフリーズドライ精子のDNAはなぜ高温処理によるダメージを受けやすいのかについては調べることができなかったことから、予定よりもやや遅れていると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
水酸化ナトリウム以外の薬剤でpHを調整したフリーズドライ用溶液を用いると、どのような結果が得られるのかを高温処理(50℃、3日間)で調べ、これまでの結果と比べる。高温に対してより強い条件を獲得したと思われる条件でフリーズドライ精子を作製し、それらのサンプルを冷蔵(1か月以上)~40℃(1か月)~冷蔵(1か月以上)というように、高温条件を間に入れて保存する。この保存方法は、夏季の災害や事故などによる停電が1か月間続いた後、復旧したことを想定している。そのフリーズドライ精子を用いて作製した受精卵の染色体分析および発生能を調べるのが今後の主な課題である。また本年度は、10年前に冷蔵を開始したフリーズドライ精子を用いて受精卵の染色体分析と発生能の解析を行う予定である。低いpHで作製したフリーズドライ精子のDNAはなぜ高温処理によるダメージを受けやすいのかについては、本研究とは別の機会で解決すべき課題かもしれない。しかし、低pH依存性のDNA分解酵素の関与や、低pHと温度に依存した活性酸素分子種の生成の可能性などを視野に入れ、フリーズドライ用溶液に各種イオンや各種キレート剤などを含ませるなど、DNAダメージを抑制するためのアプローチを試みたい。
|
Research Products
(1 results)