2013 Fiscal Year Research-status Report
分子生物学的手法によるオキナワキノボリトカゲ外来個体群の原産地の特定
Project/Area Number |
25430189
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
本多 正尚 筑波大学, 生命環境系, 教授 (60345767)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
太田 英利 兵庫県立大学, 自然・環境科学研究所, 教授 (10201972)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 環境保全 / 多様性 / 琉球列島 / 爬虫類 / キノボリトカゲ科 / 遺伝子 / 原産地 / 人為分布 |
Research Abstract |
中部琉球(奄美・沖縄諸島)固有のオキナワキノボリトカゲ Japalura polygonata polygonata が、移入により南九州の一部に到達して局地的に高密度に達し、在来生態系・生物多様性への脅威となりつつある。本研究では、南九州外来個体群の遺伝的特性、特に奄美・沖縄各島嶼の在来個体群との遺伝的対応について、分子生物学的手法を用いて明らかにすることで、本国内外来個体群が生じる原因となった中部琉球原産地から南九州への移入の経路・過程を推定し、さらなる侵入の防止策の策定に資すると同時に、絶滅が危惧される在来島嶼個体群の強化・回復に必要不可欠となる遺伝情報の基盤構築を目的として研究を進めた。 今年度は、これまでに報告のあった宮崎県日南市と鹿児島県指宿市の外来個体群の採集と生態調査、沖縄諸島を中心とした在来個体群の採集、およびミトコンドリア 12S rRNA と 16S rRNA の塩基配列の変異からの予備的解析を行った。 その結果、日南市の報告のあった地点で、今年度もオキナワキノボリトカゲ成体が採集された。これは、定着した集団が現在も引き続き生息していることを示唆する。一方、指宿市では、報告のあった3地点のうち2地点では同成体が採集されたが、残りの1地点では個体が確認されなかった。この地点では、生息林が宅地造成のため消失し、環境が変化しているので、付近での範囲を広げたさらなる調査が必要であると考えられた。 塩基配列を用いた分析では、日南市の個体は奄美諸島の個体群と近縁になった。しかし、指宿市の個体は、今回分析した個体群からは、どこに由来するかは判別できなかった。全体的に他亜種も含めて種キノボリトカゲ J. polygonata が複雑な系統関係になり、種全体のより精度の高い系統樹を構築することが不可欠であると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
オキナワキノボリトカゲ在来個体群が、近縁亜種も含めて、予想以上に複雑な系統関係になった。この関係がより精度の高い系統樹で示せれば、この地域の生物地理に関して新知見になる可能性が高い。また、比較的進化速度の遅いミトコンドリア遺伝子を用いた今回の解析でも、ある程度の原産地特定が可能であることが明らかになった。これは、塩基配列を利用した産地判別が、既に他種において行われて優れた成果を上げているにも関わらず、日本産爬虫類には応用されていないことを考慮すると、保全生物学上ある程度の成果だと判断できる。しかし、その一方で、近縁亜種も含めた系統関係の解像度が悪く、種キノボリトカゲ全体の十分な標本採集およびより詳細な分析が必要不可欠となり、新たな課題が浮かび上がってきた。 もっとも大きな問題となったのは、度重なる台風のため、予定した調査(特に奄美諸島と外来個体群)が行えなかったことである。より多くの地点からの標本採集は、本研究の根幹に関わる部分であり、現状では「やや遅れている」と判断せざるを得ない。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、オキナワキノボリトカゲの追加の組織サンプルの採集を行うと同時に、分布域や生息数等の生態学的調査、実験室での分子生物学的な実験を行い、在来個体群の遺伝的分化パターンの把握と外来個体群の原産地を特定する遺伝マーカーの検出に努める予定である。 外来個体群調査地については、日南市と指宿市の先行調査で報告されている場所で、継続して個体採集および生態調査を行う。特に、消失の可能性がある指宿市の1地点では、地理的あるいは植生的に本亜種が好みそうな場所に範囲を広げて、調査を行う。同時に、観葉植物やペットとしての持ち込み等、予想される経路や方法について、聞き取り調査を行う。 在来個体群については、次年度は奄美諸島を重点的に行う。これと同時に新たに、近縁と考えられる宮古諸島と与那国島を除く八重山諸島に分布するサキシマキノボリトカゲ J. p. ishigakiensis、与那国島に分布するヨナグニキノボリトカゲ J. p. donanも含めて採集し、所蔵する台湾に分布するキグチキノボリトカゲ J. p. xanthostoma の検体も含めて、種全体を分析する。 分析は、各個体群について数個体を対象にし、ミトコンドリアDNA遺伝子(チトクロームb 等)および核 DNA 遺伝子(Rag1、c-mos 等)について、PCR-ダイレクトシークエンス法により塩基配列を決定する。得られた結果から、個体群間の遺伝的分化やそれらの関係および個体群内の遺伝的分化や多様性に関して、最尤法やベイズ法による系統推定、多様度指数等の集団遺伝学的解析を行う。 そして、遺伝的分化パターンから、自然分布域で各在来個体群を特徴づける遺伝マーカーを用いて外来個体群との比較を行い、聞き取り調査の結果と合わせ、外来個体群の移入経路・過程を推定する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記のように、度重なる台風のため、予定した調査(特に奄美諸島と外来個体群)をキャンセルせざるを得なかったため、旅費の未使用額が次年度使用額として生じた。これに関しては、日程を移動しての再調査も考えたが、他の業務やオキナワキノボリトカゲ自体の活動性の観点から諦めざるを得なかった。 今年度に予定したにも関わらず、調査を行えなかった奄美諸島、および中部琉球に隣接し、近縁と考えられる亜種が分布する宮古諸島と八重山諸島を中心に調査を行う。したがって、次年度使用額については、今年度の計画通り、すべて調査旅費として使用する。
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