発生工学的手法を用いた特別天然記念物「オナガドリ」の保全

2014 Fiscal Year Research-status Report

• Project/Area Number: 25430192
• Research Institution: Hiroshima University
• Principal Investigator: 前田 照夫 広島大学, 生物圏科学研究科, 教授 (50144895)
• Project Period (FY): 2013-04-01 – 2016-03-31
• Keywords: オナガドリ / 黄斑プリマスロック / 始原生殖細胞 / 凍結保存

Outline of Annual Research Achievements

現在，オナガドリの飼育数は限られており，鳥インフルエンザ等の感染症が発生すると，絶滅する可能性もあり，オナガドリ遺伝子の保存方法の確立が急務である。遺伝子の保存方法として，精子，卵子，あるいは始原生殖細胞（PGC）等の生殖細胞の凍結保存が考えられる。その中でも，PGCの凍結保存は有効な一手段であり，確実にPGCを凍結保存することができれば，生殖系列キメラの作出にも利用することができると考えられる。しかし，これまでオナガドリPGCの採取や凍結保存に関する研究はまったく行われていない。
本年度の研究では，オナガドリの受精卵から，PGCを採取し，凍結保存後のPGCの生存率を観察し，オナガドリのPGCの凍結保存が可能かどうかを検討した。なお，オナガドリとの比較対象として，コマーシャル鶏である黄斑プリマスロック（以下，黄斑と略記）の受精卵から採取したPGCを用いた。また，PGCの凍結保存には市販されている凍結保存液であるSTEM－CELLBANKER（Nippon Zenyaku Kogyo Co., LTD.）を用いた。
オナガドリおよび黄斑共に，PGCの採取，凍結保存に成功した。オナガドリ受精卵からのPGC採取は黄斑に比較して困難であり，1個の受精卵から回収できるPGC数はオナガドリの方が少なかった。また，凍結融解前の生存率においては，オナガドリおよび黄斑の両方とも100％の値を示し，有意差はなかった。一方，凍結融解後の生存率においては，オナガドリおよび黄斑の値は，それぞれ，5回の平均値が66.8％（最大値：75％，最小値：50％）および91.0％（最大値：100％，最小値：75％）であり，オナガドリの方が黄斑に比べ有意に低い値であった。
これらの結果より，STEM－CELLBANKERを用いてPGCの凍結保存が可能であること，また，凍結前の処理においてオナガドリおよび黄斑のPGCはほとんど死滅しないこと，さらに，オナガドリPGCは黄斑PGCに比べて耐凍性が弱いことが明らかになった。

Current Status of Research Progress

2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.

Reason

26年度の研究において，オナガドリの受精卵からのPGC採取および凍結保存に成功した。
また，本年度の研究を通じて，以下のことが明らかにされた。
１．オナガドリPGC採取は黄斑に比較して困難であり，1個の受精卵から回収できるPGC数はオナガドリの方が少ないこと
２．PGCの凍結融解前の生存率においては，オナガドリおよび黄斑の両方とも100％であり，凍結前の処理でPGCは死滅しないこと
３．PGCの凍結融解後の生存率においては，オナガドリおよび黄斑の値は，それぞれ66.8％および91.0％（5回の試験の平均値）であり，凍結融解後のオナガドリPGCの60％以上が生存しており，凍結融解後のオナガドリPGCが生殖系列キメラの作出にも利用できること

Strategy for Future Research Activity

今後は，オナガドリ受精卵から多くのPGC数を確保するために，より効率的なPGCの採取方法を確立すること，また，STEM－CELLBANKER以外の凍結保存溶液による生存率も検討する必要がある。さらに，本研究では，PGCの凍結保存期間が24時間以下の短期間であったため，長期間凍結保存した時の生存率も確認する必要があると考えられた。

Causes of Carryover

平成26年度は，1,134円のわずかな残額が生じた。残額が少額であるため，あえて0円にするための消耗品の購入を行わなかった。

Expenditure Plan for Carryover Budget

残額（1,134円）については，27年度予算と合わせて，物品費（消耗品）の購入を予定している。