2013 Fiscal Year Research-status Report
超高精度結晶構造解析によるプロトン輸送タンパク質の全水素原子位置決定
Project/Area Number |
25440020
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
竹田 一旗 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 講師 (30332290)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 結晶 / タンパク質 / 界面活性剤 |
Research Abstract |
プロトン輸送は光合成や電子伝達、物質輸送などに関与する膜タンパク質に広くみられる現象であり、生命活動のなかで最も重要な素過程のひとつである。ところが、これらの膜タンパク質のプロトンや水素原子の位置情報は全く実験的に決定されていないこともあり、プロトン輸送現象の本質はいまだ議論の的である。そこで、代表的なプロトン輸送タンパク質である高度好塩菌の光駆動プロトンポンプ、バクテリオロドプシンについて高分解能X線結晶構造解析を実施し、タンパク質中の全水素原子の位置情報だけでなく、分極度などの精度の高い構造情報を実験的に決定して、プロトン輸送メカニズムを解明することが本研究の目的である。しかしながら、バクテリオロドプシンの結晶は、流動性の低い脂質立法相の中で結晶化するために、結晶性が良いにもかかわらず大型化が困難である。本年度は、バクテリオロドプシンについて、高精度な構造解析を可能にするために必要な大型結晶の作製条件の確立をおこなった。脂質立法相を利用した結晶化に適した添加剤の検索をおこない、長鎖の界面活性剤と脂質の混合物を利用することで立法相を形成させたまま流動性を高めることが可能となった。また、大きな結晶を確率良く作成するために、種結晶育成(シーディング)法の開発をおこなった。これらの方法を組み合わせることにより、再現性良く大型結晶の作製ができる条件を確立することができた。また、脂質相を溶かして結晶を取り出すのに必要な脂溶性化合物の検索をおこない、この化合物をそのまま抗凍結剤として使用した結晶凍結方法も確立できた。さらには、作製した結晶を使用して回折実験をおこない、最高で1.1Å分解能の回折データの測定にも成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度の目標は、高精度構造解析に必要な結晶の結晶化条件の確立であった。これまでに、最大辺が0.3㎜以上の結晶を多数作成することに成功し、高分解能の回折データの観測にも成功している。これは、これまで報告されている中で最も高分解能である。また同時に、結晶の取り出しや凍結についても、従来よりも簡便な方法を確立することができた。したがって、今回の成果をもとにして、今後高精度構造解析を展開していく基盤が整ったと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
大型結晶の作製:前年度に確立した結晶化条件をもちいて、高精度構造解析に必要な大型結晶を準備する。 高精度X線回折データ収集:タンパク質中の水素原子を感度よく観察するためには、回折データが単に高分解能であるということだけではなく、その測定精度が極めて高いことが要求される。測定精度の低下を招くX線損傷の影響を排除するためには、1個の結晶からは数フレームしか回折像を取得できないと予想される。徹底してX線損傷を抑制した上で、同型性が高く分解能も高いデータを選別して1つのデータセットを再構成する。したがって、新たに回折データ収集の方法を確立させる必要がある。これまでに放射光X線を使用した回折実験で1.1Å分解能の回折斑点を記録することに成功しているので、測定温度や露光時間、照射線量などの実験条件を最適化する。 水素原子の電子密度を感度よく可視化する技術の開発:水素原子の電子密度は非常に弱いため、高分解能データであっても観察するのは容易ではない。そこで、データの解析において、シグナルとノイズとのコントラストを上げる電子密度の表示方法の検討をおこない、より高感度にタンパク質の水素原子を観察する方法を確立する。これまでにタンパク質の高分解能構造解析に最大エントロピー法(MEM)が利用された例はほとんどないが、MEMによる電子密度の改良をおこなう。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
脂質類の融解、混合のためにプログラム式のブロック恒温槽を購入する予定であったが、既存のインキュベータにより代用することで実験を遂行したために、その分の物品費が不要になった。また、研究成果を英語論文にして報告する際の英文校閲の費用を人件費・謝金に計上していたが、執筆の途中であるために使用しなかった。 これまでの実験において、大型結晶の作製条件は確立できたが、今後の回折実験に使用する多数の結晶を作製するためには、脂質相の流動性の向上に必要な化合物を大量に購入しなければならない。しかしながら、その化合物は非常に高価であり、その購入のために使用する。また、本年度中に英語の英文校閲を依頼する際の費用として使用する。
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