2013 Fiscal Year Research-status Report
MAPキナーゼ活性化動態の可視化と操作によるストレス応答特異性決定機構の解明
Project/Area Number |
25440043
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
冨田 太一郎 東京大学, 医科学研究所, 助教 (70396886)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ストレス応答 / キナーゼ / 環境ストレス応答 |
Research Abstract |
本研究では、ストレスを受けた細胞内で活性化され、細胞死や細胞分化などの多様な細胞機能を制御するストレス応答MAPキナーゼ群がどのようなメカニズムで適切な応答を誘導するのかを解明することを目的とする。H24年度までの先行研究から、紫外線、サイトカイン、タンパク合成阻害によって特に細胞質の領域でストレス応答MAPKが活性化されることを見いだしていたが、これらの刺激の間でキナーゼ活性化にどのような質的・量的な違いがあるのかは不明であった。そこで、生きた細胞における各ストレス応答キナーゼ (JNKとp38)の活性化を定量的にイメージングする実験系を構築し、刺激の種類ごとのストレスMAPK応答の時間経過の比較実験を行った。その結果、特にp38に関して、タンパク合成阻害刺激では全ての細胞がほぼ一致してゆっくりとした活性化を示すのに対し、炎症性サイトカイン刺激の場合には、同じ培養皿の上でも、各細胞毎に、キナーゼ活性化に伴って生じるキナーゼ抑制効果に差を生じていることが明らかになってきた。従来、ストレス応答キナーゼの活性化は主に細胞集団の平均的な挙動を中心に解析されてきたが、本研究により単一細胞レベルの解析を行ったことで、ストレス応答シグナルの細胞毎の多様性の存在が示された。本研究の医学的意義として、臨床で用いられている抗がん剤や免疫抑制剤はストレス応答シグナルの制御を介してその効果を発揮するが、細胞毎の応答多様性はほとんど考慮されていない場合が多く、効果的に全ての細胞にも薬が効く方法の開発等、新たな治療戦略を考える基礎となり得る。生物学的には、細胞毎の応答性の違いは、細胞が環境や刺激にうまく適応する上で何らかの重要な意味を持つと考えられる。今後「シグナルの時空間動態」と「細胞毎の応答同期性の違い」の2つを軸として、ストレス応答経路の情報伝達のしくみを明らかにしたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度の実施計画では、哺乳類培養細胞に様々なストレスを与えた際のストレス応答キナーゼ活性のイメージングを実現し、刺激の種類毎に、細胞内のストレス応答シグナル動態にどのような時間的・空間的な特徴があるのかを解明することを計画したが、①イメージング実験系の確立、②各種ストレス刺激に対する応答解析についてはほぼ予定通りに解析を終え、実際に、刺激の種類ごとのシグナルに違いを見いだすことができたことから、おおむね順調に進展しているといえる。本研究では、刺激の違いによって「細胞毎の同期性の違い」という新たな知見を得ることができた。特に、疾患治療などの戦略を考える上では、同種の細胞間での応答性の違いについては従来あまり研究が進められておらず、今後そのメカニズムを解くことができれば、医学的に非常に有用な知見となると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度にストレス毎の細胞内ストレス応答キナーゼ活性化動態の違いを明らかにできたため、次年度以降も予定通りに、その生理的意義の解明を目指す。特に、平成26年度には、ストレス応答キナーゼを任意のタイミングで任意の強さに制御する制御実験を行い、任意の時間パターンで細胞内のキナーゼ活性を制御して、その生理的役割を解析する。具体的な研究計画にも大きな変更はないが、「細胞毎の同期性の違い」という新たなファクターが見つかったため、今後解析を進める上では、当初予定していた細胞集団レベルの細胞応答解析に加えて、単一細胞レベルの応答多様性が細胞集団の応答に果たす寄与についても解析対象としたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究を計画通り進めた結果、ほぼ見込額の通りであった。計画にも大きな変更は加えなかった。消耗品使用量に変更はなかったが、消耗品購入に際し、業者が行う不定期のキャンペーンを利用して支出を節約した結果残金を生じた。 H25年度に行った研究によって、「細胞ごとのストレス応答シグナルの同期性」という現象を見いだした。実験計画に大きな変更はないが、細胞毎の違いを解析するためには消耗品を追加で購入する必要が生じるので、残金を充当したい。
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Research Products
(2 results)