2013 Fiscal Year Research-status Report
ダウン症病因キナーゼDYRK1A-WDR68複合体の生理的機能の解明
Project/Area Number |
25440046
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
宮田 愛彦 京都大学, 生命科学研究科, 助教 (70209914)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | DYRK1A / WDR68 / TCP1α / TRiC/CCT / WD40ドメイン / 分子シャペロン / キナーゼ / シグナル伝達 |
Research Abstract |
DYRK1Aは脳神経系の発生・機能に重要なキナーゼで、ダウン症候群の原因の一つである。これまでの研究でDYRK1Aの細胞内特異的結合タンパク質としてWDR68を同定した。WDR68は種間でアミノ酸配列が極めて良く保存されたWD40タンパク質であるが、その生理的機能・制御機構は未解明である。DYRK1A-WDR68複合体の機能を明らかにすることはダウン症候群の分子的理解につながる重要な研究課題である。本年度は、WDR68を哺乳類培養細胞に発現させ抗タグ抗体を利用して結合タンパク質と共に免疫沈降し、複合体中のタンパク質を網羅的にマススペクトルによって解析した。また同時にリン酸化プロテオームの手法によってWDR68及びその結合タンパク質中のリン酸化サイトの決定を行なった。その結果、WDR68の細胞内結合タンパク質の候補としておよそ250のタンパク質が同定されたが、その中に細胞質の主要な分子シャペロンであるTRiC/CCTを構成する8つのサブユニットすべてが含まれていた。従って、WDR68がTRiC/CCTと相互作用すると考えられた。培養細胞発現系を用いて実際にWDR68がTRiC/CCTの構成成分であるTCP1αと結合することを確認し、結合に必要なドメインの同定を行なった。またコンピューターモデリングによってWDR68が7つのβプロペラから成るリング状構造を取ることを明らかにした。更に、細胞内TCP1αをsiRNA法によって減少させるとWDR68の構造が異常になってDYRK1Aとの結合が起こらなくなること、その結果WDR68の細胞内局在が変化する事を明らかにした。なお、TCP1αを減少させてもWDR68の存在量には影響がなかった。以上より、TRiC/CCTがWDR68の細胞内での正しいフォルディングと細胞内局在を支配する重要な結合分子シャペロンであることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に記載した研究の目的に沿ってWDR68の細胞内結合タンパク質の網羅的な同定を行ない、複数の結合タンパク質を見出すことができた。得られた結合タンパク質のうち、主要なものとしてTRiC/CCTの8つのサブユニットすべてが見出されたため、本年度はTRiC/CCTとWDR68との結合について主に解析を行なった。解析には培養細胞を用いた系を用い、TRiC/CCTとの結合がWDR68の構造・機能・局在を制御することを見出すことができた。得られたこれまでの結果をすべてまとめて現在論文を作成中である。WDR68の機能制御機構の一端を明らかにする成果であると共にTRiC/CCTの細胞内機能の詳細を知るためにも重要な結果であると考えている。交付申請書に記載した研究目的・計画のうち、WDR68の結合タンパク質の同定とそれによるWDR68の機能制御機構の解明についてはほぼ計画通りにおおむね順調に研究は進展したと評価できる。一方、WDR68とその結合タンパク質によるDYRK1Aの機能制御に関しては今後さらなる研究が必要である。他にも多数の結合タンパク質候補が得られていることから、今後その中から生理的に重要なターゲットを選択して同様の手法で解析することにより、順調な研究の進展が見込まれる。また同時にリン酸化プロテオーム解析を行ない、既にWDR68のリン酸化部位の同定も完了した。従って、研究計画に記載したもう一つの大きな柱であるリン酸化等の翻訳後修飾によるWDR68の機能制御についても既に一部進展があったと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの研究の進展がおおむね順調であることから、交付申請書に記載した次年度以降の研究目的・研究計画に大きな変更を加える必要はない。今後の研究で明らかにする重点項目としてはリン酸化によるDYRK1A-WDR68複合体形成の制御機構と、WDR68を介するDYRK1Aによるキナーゼシグナリングの分子機構の解明が挙げられる。これまでに同定した多数のWDR68結合タンパク質のリストに含まれるキナーゼに特に着目し、リン酸化プロテオームによって決定したWDR68の各リン酸化サイトの修飾に関わるキナーゼの同定を進める。既に予備的な実験によって主要なキナーゼのsiRNAによる抑制の条件検討を行ない、良好な結果が得られている。主に哺乳類培養細胞を用いて責任キナーゼの最終的な同定を各種キナーゼに対するsiRNAや特異的阻害剤を用いた抑制実験によって行なうとともにリン酸化サイトの人工点変異によるリン酸化不能体の機能を解析する。特に、DYRK1A-WDR68複合体の形成がリン酸化によって制御される可能性に着目し、複合体形成に影響するWDR68及びDYRK1A双方のリン酸化について、リン酸化サイトと責任キナーゼの完全な解明を行なう。また、WDR68がキナーゼシグナリングを媒介するスキャフォルドとして機能するという仮説に基づき、既に得られたWDR68結合タンパク質のリストの中にDYRK1Aによってリン酸化される生理的な基質があるかどうか、またそのリン酸化によって基質の機能がどのように制御され、それがDYRK1Aの機能とどう関わるのかを明らかにしていく。最終的にリン酸化シグナル伝達におけるDYRK1A-WDR68複合体の生理的な位置づけを解明することで、ダウン症の分子機構の一端を明らかできるよう研究を推進する。
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