2013 Fiscal Year Research-status Report
ショウジョウバエにおける生殖幹細胞ニッチの形成過程と調節機構の解明
Project/Area Number |
25440119
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | National Institute of Genetics |
Principal Investigator |
浅岡 美穂 国立遺伝学研究所, 個体遺伝研究系, 助教 (40370118)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 幹細胞 / 幹細胞ニッチ / ショウジョウバエ / 卵巣 |
Research Abstract |
幹細胞は、多くの生物の組織の維持や再生過程で中心的な役割を担っている。幹細胞の数の減少は組織の崩壊、貧血、不妊などを引き起こし、増大はガン化の引き金となる。そのため、正常な組織中では幹細胞の数は厳密に制御されており、その数は組織や動物種によりほぼ定数に決まっている。しかしながら、幹細胞数を限定する分子機構については未だ不明な点が多い。 幹細胞の数は、周りにある支持細胞(「ニッチ細胞」と呼ぶ)が作る場の大きさに比例して決まる。すなわち、幹細胞数の限定機構はニッチ細胞数の限定機構に置き換えて考えることができる。しかしながら、多くの動物の組織ではニッチ細胞を同定・観察すること自体が難しいため、ニッチ細胞の形成過程や数の限定機構の解明は古くからの重要課題の一つであるにもかかわらず、これまであまり進んでいないのが現状であった。 本研究では、ニッチ細胞を細胞レベルで容易に同定・解析が可能なショウジョウバエ卵巣を材料にすることでこの困難を克服し、生殖幹細胞の数を決めるニッチ細胞の形成過程とニッチ細胞の数を限定する分子機構を解明することを目的として開始した。H25年度には、まず、生きた卵巣の中でニッチ細胞と生殖幹細胞ができてくる過程をlive imagingによって観察できるような、卵巣のin vitroの培養系を確立した。その培養系を用いて卵巣の発生過程のlive imaging像を撮影し、正常卵巣におけるニッチ細胞の形成過程を観察した。ニッチ細胞の前駆細胞であると予想されるTerminal Filament Cells (TF細胞)とIntermingling Cells (ICs)をそれぞれ蛍光蛋白質 (Green Fluorescent Protein: GFP)で標識し発生運命を追跡した結果、ニッチ細胞は、少なくともTF細胞とICsの2つに由来する可能性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究開始当初の計画では、H25年度中に以下の研究を終える予定であった。 【研究1 ニッチ形成過程を再現できる組織培養系の確立】卵巣のin vitro培養系の確立する。 【研究2 ニッチ細胞の由来と形成過程の観察】正常卵巣のlive imagingによる観察を行い、正常発生過程におけるニッチ細胞の起源の解明とその形成過程の詳細を明らかにする。 【研究1】については、予定通り進み、live imagingに最適な培養系を確立でき、当初の計画を達成できた。 【研究2】については、ニッチ細胞の前駆細胞であると予想されるTerminal Filament Cells (TF細胞)とIntermingling Cells (ICs)をそれぞれ蛍光蛋白質 (Green Fluorescent Protein: GFP)で標識し細胞系譜を追跡できるようなショウジョウバエ系統(protein-trap系統、gal4系統)を選出し、それらを用いて培養した正常卵巣中で、live imagingにより標識したTF細胞とICsの細胞系譜をそれぞれ追跡することができた。その結果、ニッチ細胞はTF細胞からとICsからの両方からでき、2つの由来を持つ可能性が示された。しかしながら、これらの細胞がどのような細胞学的現象を経てニッチ細胞を生み出すのかについてまでは明らかにすることができなかった。この点の遅れの原因の一つとして、H25年度からH26年度にかけて研究代表者の所属が異動になり、confocal顕微鏡等の実験機器や実験材料であるショウジョウバエ系統の移設・移動が行われ、その前後は実質的に培養実験が実行することができず、画像解析のみを行っていたことが挙げられる。
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Strategy for Future Research Activity |
【研究2】において、現在の実験条件では、TF細胞やICsからニッチ細胞ができる過程でおこる細胞学的現象を明らかにすることは難しいと考えている。対策として、live imagingの時間軸における解像度を上げること、観察例を増やすことをまず行う。それでも解決しない場合には、別の標識方法(単一細胞を標識する方法)や細胞分裂を可視化する方法を解析に取り入れ、ニッチ細胞の由来やでき方の詳細を明らかにする。 【研究3 FGFシグナルによるニッチ細胞数の限定機構の解明】について、当初の予定通り、FGFシグナル経路の突然変異体やRNAi系統の卵巣を【研究2】の方法で観察することにより、目的の一つであるニッチ細胞数の限定機構にFGFシグナルが関わるか否かを明らかにしたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
培養実験の実行者である研究代表者の所属の異動によって、【研究2】の培養実験ができなかった期間が生じたため、実験に使用する消耗品費及びショウジョウバエ維持費の使用量が計画より少なくなった。 H25年度に遅れた分の研究は次年度に行う予定であるため、消耗品費とショウジョウバエ維持費として次年度にそのまま移行して使用する。
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