2014 Fiscal Year Research-status Report
単純な細胞構成を備えたホヤ幼生筋における多重神経支配の意義の解明
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25440150
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
西野 敦雄 弘前大学, 農学生命科学部, 准教授 (50343116)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 神経筋結合 / 運動制御 / アセチルコリン受容体 / グリシン受容体 |
Outline of Annual Research Achievements |
尾索動物ホヤの幼生は、脊椎動物とボディプランを共有したオタマジャクシ形態を示し、海洋中を自由に泳ぐ。しかしホヤ幼生はギャップ結合で電気的に連結された片側わずか約20個(左右で計約40個)の筋肉細胞を備えるのみである。研究代表者は近年、このホヤ幼生の、ごく少数からなる筋細胞群が「可変的な強度をもって前後に伝播する屈曲波を生み出すしくみ」を研究している。本研究の目的は、この幼生の筋肉帯において、アセチルコリンによって担われる興奮性のシグナルばかりでなく、グリシンによって担われる抑制性のシグナルを受容することが、筋肉帯が「可変的な強度をもって前後に伝播する屈曲波を生み出す」上で本質的な役割を果たすことを確証することであった。本研究によって、長くアセチルコリンによる単一支配が信じられてきた脊索動物の神経-筋システムが新たに捉えなおされるための重大な契機を与えられると期待される。 本年度は、新たにゲノムが解読されたマボヤについて、アセチルコリン受容体(nAChR)とグリシン受容体(GlyR)の遺伝子発現解析を行った。これらによって、マボヤのオタマジャクシにおいて、アセチルコリン受容体に関しては3つのサブユニット遺伝子が、グリシン受容体に関しては単一のサブユニット遺伝子が筋肉に発現していることが明らかになった。しかし、アフリカツメガエルの卵母細胞に発現させたマボヤのグリシン受容体は、グリシンの投与に関わらず電気的な応答を示さなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、マボヤの幼生筋におけるグリシン受容体に相同性を持つ遺伝子の発現を確証した。カタユウレイボヤ幼生筋におけるグリシン受容体相同遺伝子の発現とあわせて考えると、幼生筋への多重入力はホヤ類に普遍的であると考えられる。またマボヤ幼生筋におけるグリシン受容体相同遺伝子の発現が高いレベルにあることから、マボヤ幼生は、筋肉におけるグリシン受容体の機能解析のターゲットとして望ましいことが分かった。 他方で、アフリカツメガエル卵母細胞の発現系では、マボヤのグリシン受容体相同遺伝子の産物は、グリシンに対する電気的応答を示さなかった。しかし本年度、新たにGABA受容体に相同性を持つサブユニット遺伝子が、幼生筋に発現していることが分かった。GABA受容体遺伝子は、グリシン受容体遺伝子と分子系統学的に近縁な関係にある。現在、ホヤではグリシン受容体サブユニットとGABA受容体サブユニットが協働して機能的な受容体チャネルを形成する可能性を考え、研究を進めている。もしそうであれば、脊椎動物ではそれぞれ独立に働く受容体サブユニットが、その起源に先立つ段階では一緒に働いていた可能性を示唆し、興味深い。 当初計画にあった電子顕微鏡を用いた神経細胞の観察にも着手でき、また上記のような進展があったことから、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
マボヤ幼生筋におけるグリシン受容体サブユニットとGABA受容体サブユニットの相互作用の可能性を確かめるために、アフリカツメガエル卵母細胞の発現系において、これらを同時に発現させて、グリシンとGABAに対する電気的応答性を調べる実験を行う。また本年度、マボヤにおけるこれらの遺伝子発現パターンを把握できたので、神経系と筋肉におけるそれぞれの機能を、アンチセンスオリゴヌクレオチドの注入実験により解析する。これらと電子顕微鏡による直接観察により、ホヤ幼生の筋肉に対する多重神経支配を確証する。 次年度は本研究の最終年度に当たる。上記実験を滞りなく遂行し、成果を学会発表と原著論文として発表することで総括する。
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Causes of Carryover |
本年度、残額がほぼ0円になるまで使用した。研究進行を最優先させるため、旅費への支出を他の競争的資金等から支出して、科学研究費の使用を研究遂行に関わる消耗品への出費と、研究支援員への雇用に集中させた。その成果から、新たな発見もあり、また当初計画にあった電子顕微鏡観察に着手することができた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究支援員の手技も安定してきた。来年度、研究計画を完遂させるためにも引き続き、研究支援員の雇用を継続する。当初計画にはなかったが、マボヤ幼生における遺伝子発現の解析には、現在使用しているものより高倍率の実体顕微鏡用レンズ(約20万円)がどうしても必要であることが分かったため、次年度早々にこれを購入する計画である。それに加えて、次年度の研究計画に沿った実験遂行のための消耗品の購入、および研究成果を発表するための論文出版にかかる費用を支出する予定である。
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Remarks |
「ギルバート発生生物学」(メディカル・サイエンス・インターナショナル、阿形清和・高橋淑子監訳)の第7章の翻訳を担当した。
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Research Products
(4 results)