2014 Fiscal Year Research-status Report
ミツバチをもちいた嗅覚記憶形成過程の脳内ダイナミクスの解明
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25440175
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
岡田 龍一 兵庫県立大学, 環境人間学部, 研究員 (20423006)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 神経行動学 / 脳 / 記憶と学習 / 昆虫 |
Outline of Annual Research Achievements |
記憶・学習の神経メカニズムについては多くのことが明らかになってきたが、学習訓練による脳内変化のうち「何が起こったか」については多くの知見があるのに対し、学習訓練中(記憶が形成されている過程)に「何が起こっているか」を直接観察した例はほとんどなく、記憶が形成されている過程での神経メカニズムはわかっていない。本研究では、匂い学習で神経可塑性を示す、ミツバチの脳の同定ニューロンであるPE1に着目して、学習訓練中のミツバチPE1の自発的な活動を記録することで、記憶形成過程での脳神経ダイナミクスを明らかにすることを目指している。 学習訓練中のミツバチPE1の自発的な活動(自発発火)を慢性的に長時間記録した。PE1の自発発火の発火パターンは2-3発の神経スパイクが短時間にまとまってバースト状に発火する特徴があり、詳細に観察するとそれらはひとつの興奮性シナプス電位に重畳していた。すなわち、PE1のバースト発火は興奮性シナプス1発の入力によって引き起こされていることを示唆している。詳しく発火パターンを観察したところ、PE1の神経活動度が周期的に増減する振動現象が見られたので、振動周波数に着目して周波数解析を行った。PE1の全神経スパイクを対象にした周波数解析では特徴的な周波数は見られなかったが、バースト発火をひとつにまとめて周波数解析したところ約0.1Hzに明確なピークが見られた。このことは興奮性シナプス入力の入力強度が約10秒を周期に増減していることを意味するものである。興味深いことに振動周波数のピークは記憶成立直前では低周波側にシフトしていた。 以上のような成果をまとめ、2014年度は国際神経行動学会でのワークショップによる講演および一般発表を行った。また、英語著書(分担執筆)を1報執筆し、2015年6月に発刊予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
電気生理学的なデータの解析は順調に進んでいる。その一方で、薬理実験については以下の理由で遅れている。本研究計画の柱のひとつであるGABAを介在するシナプスを対象にした薬理学実験を行うためには、まずPE1のGABAシグナル受容部位を特定することが必要だと考え、GABA受容体の抗体染色を行うために抗体作製を外注した。2タイプある受容体のうち、神経活動を速やかに抑制するイオン型の受容体よりも、ゆっくりと持続的な抑制効果がありグルタミン酸シナプス系では神経可塑性に関連している代謝型の受容体を最初の対象にして、代謝型GABA受容体の抗体作製を委託業者に外注した。しかし、抗体作製に予想以上の時間がかかり、抗体ができあがったのが、12月下旬であった。抗体入手後直ちに、これまで私が用いてきたプロトールに沿って抗体染色を行ったが、染色結果が芳しくなく、染色条件の検討を余儀なくされた。
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Strategy for Future Research Activity |
電気生理学と薬理実験をまとめて初めて本研究計画は完成するので、現在問題のある抗体染色の良好な染色結果を得るための染色条件を早急に確立し、PE1のGABA受容部位を特定する。抗体染色に用いるブロッキング液、希釈倍率、シグナルの増感法などを徹底的に試す。これまでの結果では1次抗体の組織浸透に問題があるようなので、特に界面活性剤に注力し、組織への浸透度を上げる工夫をする予定である。 電気生理学に関しては、順調に進展しているのでこの調子で解析を進める予定である。特に興奮性シナプスに重畳しているバースト状神経スパイクに着目し、解析結果で得られた周波数のシフトが神経スパイク列でどのように反映されていのかを分析していく予定である。また、確率的に発生する抑制性シナプス電位との関連についても並行して分析していく予定である。 また、研究の進行具合によっては抗体染色によるPE1のGABA受容部位の特定を待たずに、GABAの薬理実験を開始することも考えている。
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Causes of Carryover |
当初予定していた抗体作製に予想以上に時間がかかり、抗体作製の後に計画していた実験が遅れてしまったために、購入予定だった物品を購入しなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
抗体染色を行った後、早急に計画通りの実験を行う。計画している実験に使用する試薬や物品に使用する。
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