2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25440219
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | The Institute of Statistical Mathematics |
Principal Investigator |
長谷川 政美 統計数理研究所, その他部局等, 名誉教授 (60011657)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
足立 淳 統計数理研究所, 大学共同利用機関等の部局等, 准教授 (30370092)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 分岐年代推定 / ベイズ法 / ゲノム / 化石証拠 / 年代制約 |
Research Abstract |
当該研究を開始した頃、Science誌にO'Leary論文が発表された(2013年2月8日)。この論文では、真獣類進化の年代に関して、化石証拠とDNA配列データを統合した大規模な解析が行われた。O'Learyら研究は当該研究と深く関わるので、まずこの論文の詳しい検討を行った。 彼らの研究で最も重要な点は、膨大な化石証拠をもとに年代に関する制約を与えたことである。しかし特定の系統に属する最古の化石年代をもって、その系統が分岐した年代と見なしているために、分岐年代が実際よりも若い年代に偏っていることが明らかになった。この点を考慮して、彼らのDNA配列データを解析しなおすと、分岐年代が彼らの推定値よりもかなり古くなることが分かった。 真獣類463種のミトコンドリア・ゲノムのデータを収集して系統樹推定を行った。ミトコンドリアのデータから系統樹推定すると、核遺伝子によるものとしばしば食い違うことが指摘されていたが、タクソン・サンプリングの密度を高くすると、そのような食い違いの多くが解消することが示された。これまでの食い違いの多くは、タクソン・サンプリングの密度が低いためだと考えられる(Wu et al.論文投稿中)。 このデータを用いて、あらたに得られた系統樹上の分岐年代推定を行った。推定の偏りを解消するために、ミトコンドリア・ゲノムから年代推定を行う際の、分岐年代の事前分布の与え方を検討した。化石証拠から系統樹上のいくつかの分岐に対して事前分布として制約を与えるわけであるが、個々の証拠を検討した。その際O'Learyらの研究成果も参考にした。制約はsoft-boundとして与えるので、得られた分岐年代が化石証拠と矛盾することがあるが、その際は化石証拠の再検討を行う。このような作業を繰り返すことによって、解析の信頼性を高めていくことができるが、現在その繰り返し作業の途中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
系統樹は生物進化に関するあらゆる議論の出発点であり、分子系統樹推定法は系統樹を再構築するための基本的な技術である。系統樹推定の問題は大きく2つに分けられる。1つは系統樹のトポロジー、つまり分岐の順番を決める問題であり、もう1つは分岐年代推定の問題である。トポロジーは生物の様々な形質がどのような順番で進化してきたかを知る上で重要であり、また分岐年代は進化の時間スケールを知り、化石証拠を系統樹上にマッピングする上で欠かせない。このように、この2つの問題とも分子系統学にとって重要であるが、トポロジー推定に比べて分岐年代推定の問題は難しく、立ち遅れているので、本研究ではそのための方法の確立を目指している。 上記のような目的に沿って研究を進めているが、思いがけずO'Learyらの論文が発表されたこともあって、それも追い風となり当初予定していた研究は順調に進んでいる。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでは計算時間の制約があり大規模データにコドン置換モデルを適用されることはなかったが、このモデルが分岐年代推定にどのようなインパクトを与えるかを検討する。 ベイズ法による年代推定では、化石証拠から年代の事前分布を与えた上で、尤度を介して事後分布を計算する。事前分布にはそれほど強い根拠がないことが多いが、恣意的に与えられた事前分布が事後分布に強く影響するようでは困る。これまでの予備的な研究から、種のサンプリング密度を高めていくと、事後分布があまり事前分布に依らなくなる傾向があるが、この点を明確に示すことを目指す。また非相関モデルが実際にどの程度広範囲の系統学的な問題で成り立つかを検討し、実際の問題でどのモデルを使うべきかを判断するための指針を得る。 真獣類について,ゲノムスケールの核データによる年代推定を行い、その上でミトコンドリア・ゲノムのデータが得られている種について解析し、種のサンプリング密度が結果にどのように影響するかを評価する。また現生種のみからのタクソンサンプリングでは,絶滅率が高い系統において推定にバイアスが生じることが予想される。現存する全ての真獣類を科レベルで網羅することに加え、絶滅した科のデータをシーケンスし,分子進化解析に用いる。これまで絶滅した科では、マムート科(哺乳綱ゾウ目)およびモア科(鳥綱古顎上目)のデータが出ているのみで、絶滅した高次分類群の多様性がほとんど考慮されていない。本研究では、ゴンフォテリウム科およびゾウ科(哺乳綱ゾウ目)、エピオルニス科(鳥綱古顎上目)、メイオラニア科(爬虫綱カメ目)などのゲノムデータを決定し、これまで未知であった絶滅高次分類群の多様性を評価する。 このようにして推定された分岐年代と化石記録を組み合わせて,進化生物学の重要問題である種分化率と絶滅率の推定を行う方法を開発する.
|