2013 Fiscal Year Research-status Report
タイプ標本の再検討に基づく日本産イソギンチャク類の分類の確立と同定ツール開発
Project/Area Number |
25440221
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Natural History Museum and Institute, Chiba |
Principal Investigator |
柳 研介 千葉県立中央博物館, その他部局等, 研究員 (00321852)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | イソギンチャク類 / タイプ標本 |
Research Abstract |
デンマークのコペンハーゲン大学動物学博物館および米国のイェール大学ピーボディ自然史博物館において,本邦産イソギンチャク類のタイプ標本の探索を実施した.コペンハーゲン大学自然史博物館においては,Bockによって採集され,O. Carlgrenによって記載された本邦産および本邦に産すると予想されるイソギンチャク類タイプ標本計22点について,外部形態観察を行った.このうち,15標本については,刺胞相観察プレパラートの作成,DNA解析用の組織片の採取,さらに一部の標本について組織切片標本作製用の組織切り出しを行った.ピーボディ自然史博物館においては,1854年から1855年にかけてStimpsonによって採集され,StimpsonおよびVerrillによって記載された本邦および周辺海域産10種のタイプ標本について,外部形態観察,刺胞相観察プレパラートの作成,DNA解析用の組織片の採取を行った.ピーボディ自然史博物館において観察した8種のタイプ標本は,これまで所在不明とされていたが,今回新たに見つかった採集ノートと標本の突合によって確認できたタイプ標本であり,極めて重要な発見となった. 国内における比較標本は,タイプ産地を含む各地(愛媛県松山周辺,高知県,宮崎県南部,鹿児島湾,南西諸島)において実施し,全ての個体について,写真撮影,DNA用組織片の採取,形態観察用の標本作製を実施した.DNA抽出およびミトコンドリアCOI遺伝子のPCRによる増幅を開始し,現在までに54標本について増幅を確認した. また,相模湾においてDofleinによって採集され,1908年に記載されたExocoelactis actinostoloidesについて,原記載以降本邦において初めて得られた標本に基づき,詳細な形態形質,分子データを得た.この結果は各種学会で発表したほか,記載論文を投稿中である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
比較検討用の標本については,タイプ産地の一つである鹿児島湾において,一部目的とする種を採集できなかったが,他は順調に標本を得ることができた.また,海外の博物館におけるタイプ標本調査を当初の計画通り実施することができ,特にピーボディ自然史博物館においては,従来所在不明だったタイプ標本の特定に至ることができ,大変重要な成果を上げることができた. 以上,研究を遂行する上での基礎データの収集は順調に進んでいる.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究で扱うイソギンチャク類は,原記載を含む従来の記載では,種同定のキーとなる形態形質の詳細なデータがほとんど示されていないため,本研究においては,タイプ標本から種同定に利用できる情報をどれだけ引き出すことができるかが重要なポイントである.しかし,本年度確認できたタイプ標本は,体の一部しか残っていなかったり,一部重要な形態形質が失われてしまっているなど,外部形態から得られるデータが少なかった.このため,タイプ標本から切り出した組織片について,DNA抽出および目的遺伝子の配列決定手法を確立することが,研究の進展に大きく影響する.従来,イソギンチャク類では種レベルの識別が可能なDNAバーコード領域が特定されておらず,古い時代のタイプ標本から配列を決定すること困難であった.しかし,申請者の所属機関に新たに導入された次世代シーケンサを用いることにより,精度の高い解析を実施できるが可能性がある. このようなことから,研究の第一段階として,タイプ標本のDNA解析手法の確立を目指す.第二段階として,タイプ標本から得られた塩基配列情報をもとに,タイプ産地周辺で採集された比較標本からタイプ標本と同一種と推定される個体を探索する.第三段階として,DNAレベルの種同定に基づき,タイプ産地を含めた複数の産地において採集された新規標本について,詳細な形態形質の観察を実施し,従来種同定のために不足していた形態形質情報を含めた種の再記載を行う.同時に,野外での同定キーを探索し,フィールドでの同定を可能とする検索表の作成を目指す. 今後,タイプ標本の探索,それらのDNA解析,形態形質の検討を進めるとともに,タイプ産地を中心とした標本の採集を継続する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
外国旅費について,早期割引の航空券を使用するなどして,当初の予算額を大幅に下回ったため. 次年度は,タイプ標本の次世代シーケンサによる解析を実施するため,これらに必要な試薬類の購入に充当する予定である.
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