2013 Fiscal Year Research-status Report
タマクラゲ属ヒドロ虫類の新宿主獲得による種分化についての系統進化学的研究
Project/Area Number |
25440222
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | National Museum of Nature and Science, Tokyo |
Principal Investigator |
並河 洋 独立行政法人国立科学博物館, 動物研究部, 研究主幹 (40249909)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | ヒドロ虫 / Cytaeis / 宿主特異性 / 固着性動物 / 種分化 |
Research Abstract |
本研究は、相異なる腹足類の貝殻上で固着生活するタマクラゲ属のヒドロ虫類について、形態学的・発生学的情報と分子情報に基づき、固着基盤の動物(以下、宿主とする)との関係性も踏まえて系統関係を明らかにし、特異的な宿主上に固着生活するヒドロ虫類の種分化の実体解明に寄与することを目的とする。 平成25年度は、原記載後採集記録のなかったCytaeis nudaを富山湾にて発見し、宿主との関係も加えて再記載した。また、ヒメヤドカリ居住の巻貝のみを宿主とするCytaeis sp.1を館山湾から得た。C. sp. 1は、形態的特徴に加え、ヤドカリ類と特異的な関係にあることから未記載種と考えられた。館山湾からはキビムシロガイやアラレガイを、相模湾からはハナムシロガイを宿主とするCytaeis属を得た。これらの標本についての研究をもとに、GFP発色パターンが本属において種特異的な形質であることが示唆された。 分子系統学的解析については、採集したCytaeis属ヒドロ虫のCO1と16Sを比較した。その結果、本属にはC. kakinumaeのように異なる科に属する複数の腹足類を宿主とする種が存在することが明らかとなった。このことは、本属のヒドロ虫類においては、系統的に離れた分類群を宿主とする種がおり、新規宿主獲得による種分化の実体を解明するためには宿主との関係性を慎重に検証する必要があることを示すものであった。さらに、Cytaeis属の種分化においては、従来進化的に変化する形質とされていた「生殖巣発達時期の種間の違い」(つまり、クラゲ形成から生殖巣発達までの時間が種間で異なること)は、一方向で変化したものではなく、属内で並行して何度も変化していたことが示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究材料の収集に関しては、平成25年度に予定していた沖縄県におけるCytaeis属の採集はできなかったが、富山湾や館山湾において本研究を進める上で重要な種の標本を収集することができた。収集したCytaeis属のヒドロ虫類については、それぞれ形態学的、発生学的に研究を進めることができ、特に、GFP発色パターンが種特異的なものと示唆され、種の類別形質として評価できることを明らかにすることができた。 また、分子系統学的な研究にも着手することができ、採集したヒドロ虫類については、目的とするCO1に加え16Sについても塩基配列の情報を得ることができた。得られた分子情報の比較に基づき、「生殖巣発達時期の種間の違い」が進化的に変化する形質ではないという本属の系統分類学的研究において重要な知見を得たことは特筆すべきことである。 なお、固着基盤の動物に関しては、ムシロガイ類に関して分子情報が得られている。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、沖縄県を含む日本各地でCytaeis属ヒドロ虫類の収集に努め、それらについての形態学的、発生学的研究から本属の種の特性を明らかにするとともに、CO1や16Sに加えて、より系統関係を反映する分子情報についても探索を行い、これらをもとに本属内の系統関係の解明を試みる。 さらに、Cytaeis属ヒドロ虫類の種分化の実体については、異なる科に属する複数の腹足類を宿主とする種も存在することから、固着基盤として利用している動物のみならず、他の要素(例えば、その動物上に生息するバクテリアなど他の生物)との種特異的な関係がないかについて、当該分野を専門とする研究者との情報交換も進めることで、検証を行っていく計画である。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度に予定していた沖縄県での研究材料収集ができなかったために旅費の支出が抑えられ、また、CO1と16Sの分子情報探索については安価な薬品の使用にとどまったことで全体の経費が減ったことが理由である。 主に沖縄県を中心として研究材料収集を実施するための旅費に加えて、系統関係を詳細に解明するためにCO1や16S以外の分子情報を探索のための経費として使用する計画である。
|
Research Products
(3 results)