2014 Fiscal Year Research-status Report
特定外来種ヌートリアの日本「侵略」成功のメカニズム
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25440235
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
河村 功一 三重大学, 生物資源学研究科, 教授 (80372035)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
古丸 明 三重大学, 生物資源学研究科, 教授 (10293804)
小林 秀司 岡山理科大学, 理学部, 准教授 (50260154)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 特定外来生物 / 定着成功 / 小進化 / バイオテレメトリー / 遺伝的多様性 / モルフォメトリー / 適応放散 / 創始者効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度に引き続き,岡山県産ヌートリアの定着成功要因を探るため,遺伝,形態,行動の3点について調査を行った所,以下の事が明らかとなった。 1)遺伝子解析:mtDNAのhaplotype分析において,B型は吉井川水系を中心に分布していたが,旭川においても4個体確認された。μDNA10座を用いた解析において岡山集団はアリル数と有効集団サイズにおいて原産地集団(アルゼンチン)に匹敵する高い値を示したが,アリル組成において過去におけるボトルネックの存在が示唆された。血縁度では僅かではあるものの異系交配の傾向が認められ,移動性についてみるとヌートリアは概して行動権が狭いものの,一部,10km以上に及ぶ長距離移動を行う個体の存在が示唆された。また,分布拡大様式の推定において,下流から上流に向けた方向性の存在が示唆されたが,アサイメントテストにおいて,高梁川集団は吉井川・旭川集団と遺伝的特徴が若干異なる事が判った。なお,雌雄間で移動能力の違いは認められなかった。 2)形態解析:成獣個体の体サイズおよび頭蓋骨の26項目の計測値について主成分分析を行い、三大河川である吉井川、旭川、高梁川の各水系別に生息標高に基づく比較を行った。その結果、雌雄共に第1主成分は最大頭蓋長、第2主成分は下顎臼歯列長の得点が高かった。他の成分では雌雄で成分の解釈は異なったものの、第3主成分から第5主成分にかけては、切歯孔長と上顎第3大臼歯歯冠面最小距離(雌雄)、大後頭孔幅(雄)、下顎関節顆間距離(雌)の得点が高かった。 3)行動特性の解明:昨年度に引き続き,発信器埋伏による行動圏の調査を行った.隣接した地域に営巣している新規加入の雌雄各一個体について講堂追跡を行ったところ,両個体の行動圏はかなり重複するものの,随伴して行動する様子は殆ど見られず,昨年とは正反対の結果となった.行動圏の面積はおよそ6-7000㎡程度で,昨年度と比較するとかなり縮小していた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の柱である遺伝子解析,形態解析,行動特性の解明の3点についての進捗状況は以下の通り。 1)遺伝子解析:mtDNAのcytochrome bならびにμDNAを用いた分析は予想以上に進行し,岡山平野のほぼ全域に渡る個体(計197個体)を解析することができた。このため,岡山平野におけるヌートリアの定着成功要因の解明はほぼ達成できたと考えられる。しかしながら,mtDNAのD-loop領域の解読はPCRにおける技術的問題(DNAのsatellite構造の解読の難しさ)により分析個体は半分以下(80個体)に留まった。次年度は分析手法の工夫により解析個体数を増やす必要がある。 2)形態解析:岡山県内の3主要河川のうち,高梁川中流および下流,旭川中流および上流,吉井川中流および上流のサンプルは一定数,集めることが出来た.すなわち,調査対象地域の三分の二はカバーしており,解析も進んでいるという意味で順調に推移している. 3)行動特性の解明:ラジオテレメトリー法により個体追跡を行った結果として個体の行動圏が明らかになりつつあるという意味では順調に推移している.しかし,個体差があまりにも大きく,これまでの学説と異なるような行動を示すことも多く,こうした変異の実態解明が課題である. 結論として,遺伝子解析と形態解析は予想以上に進んでいるが,行動解析が当初の計画よりやや遅れていることから,全体的な達成度としては,おおむね順調な進展と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の柱である遺伝子解析,形態解析,行動特性の解明の3点について,今後の推進方策は以下の通り。 1)遺伝子解析:PCRの技術改良によりD-loop領域の解読個体数を増やし,岡山平野におけるヌートリアの詳細な分布拡大様式の解明を行う。また,本年度は濃尾平野の集団について糞サンプルを用いたμDNA分析により集団解析を行い,岡山集団の分析結果と比較する事によって,日本各地におけるヌートリアの定着成功要因を探る。 2)形態解析: サンプルの不足していた旭川下流域のさらなるサンプリング態勢が整った.吉井川下流域においては有力な捕獲者が不在であるが,少数ずつ有害駆除個体を集める体制を構築しつつある.標本化プロセスも順調に推移しているので,全地域のサンプルが集まり次第,全地域を通した再解析を行う. 3)行動特性の解明:ヌートリアは,これまで考えられていた以上に行動特性上の個体変異,それも個体間変異だけでなく個体内変異があることがわかりつつあり,こうした点の解明のために,飼育下個体に対する行動分析にシフトすることを検討している.
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Causes of Carryover |
遺伝子分析において実験方法(PCRのコストダウン)の見直し,プライマーの低価格化により,実験経費を大幅に削減することが出来たことと,サンプリングにおいて研究協力者による大量のサンプルの入手が可能となったことによりサンプリング経費が削減できたことによる。また,研究の進め方においてコストを要するmtDNAのD-loop分析よりも安価で確実なデーターの取得がかのうであるμDNA分析を優先したこともコストダウンに大きく関係している。 行動解析において,ヌートリアは,これまで考えられていた以上に行動特性上の個体変異,それも個体間変異だけでなく個体内変異があることが判ったことから,H27年度は飼育個体の解析を計画しており,その為の予算確保の意味もあり,次年度使用額を残してある。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
H27年度は,濃尾部屋において糞データーを用いたDNA分析を計画しており,当実験に於いては,サンプリングに要する調査費用,高額のDNA抽出キット,多量のプライマーの設計,特殊サンプル用シーケンスDyeが必要とされることから,これらの実験において前年度の繰越金の使用が必要となる。また,行動解析においては,新たに飼育実験を開始することから,飼育装置,データー記録装置等の購入が必要となる。
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Research Products
(5 results)