2015 Fiscal Year Research-status Report
小麦粉品質の多様性拡大に向けた野生種染色体の微細領域導入による新規育種素材の開発
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25450007
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
田中 裕之 鳥取大学, 農学部, 准教授 (70283976)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 品質・成分 |
Outline of Annual Research Achievements |
パンコムギはA, B, Dの3種類のゲノムからなる異質6倍体のため、それぞれのゲノムには、祖先を同じくする同祖染色体が存在する。パンコムギでは通常、安定的に子孫を残すため、減数分裂中に同祖染色体間は対合しないよう制御されている。この制御に関するPh遺伝子(5B染色体に座乗)を除くと、同祖染色体間で対合が生じる。 そこでまず、パンコムギの異数体系統の中で、5B染色体を持たない系統を準備した。次に、この系統と、昨年度までに育成したパンコムギ染色体片腕と野生種染色体片腕とが動原体で結合したロバートソン型転座の染色体を持つ系統とを交配し、世代をF2まで進めた。 このF2集団について、以下の3段階で選抜を行った。1.野生種由来の種子貯蔵タンパク質をもつ系統を選抜した。その過程で、ロバートソン型転座した野生種由来染色体を持つ雄性配偶子は受精時に伝わりにくいことが分かった。2.5B染色体を欠失した個体を選抜した。その割合は、予想される1%未満より多い約12%であった。これは、異数体系統の中でも、染色体の総数がパンコムギの正常染色体数である系統を用いたことで、5B染色体は欠失しているが、正常染色体数の配偶子が多く得られたためと考えられる。3.野生種染色体と同祖であるパンコムギ染色体由来種子貯蔵タンパク質を持つ個体を1と同様に選抜した。 これら3つの条件を満たした個体を種子親、パンコムギの実用品種を花粉親として、交配種子を得た。最終的に、これらの種子のうち、同祖染色体間で対合が生じる可能性があり、野生種由来種子貯蔵タンパク質をもつ系統を40個体得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
同祖染色体間で対合を誘発するため、パンコムギの5B染色体を持たない異数体を用いたが、当初、正常染色体数より1本少ない異数体を用いる計画であった。しかし、事前の交配実験で、期待する個体の選抜効率が低くなることが予想された。そこで、5B染色体を持たないが、他の同祖染色体を余分に持つことで、正常染色体数である系統を準備することにより、候補個体数を効率的に得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
同祖染色体間で対合が生じる可能性があり、野生種由来種子貯蔵タンパク質をもつ系統を選抜できたので、この中から野生種の染色体が段階的に削除された系統を選抜する。これにより、保有している有用な野生種由来種子貯蔵タンパク質遺伝子は残しつつ、遺伝的背景に占めるパンコムギの割合を増やしていく。その際、農業形質に優れるパンコムギ実用品種を反復親として、連続戻し交配を行う。この系統育成の過程では、これまでに整備してきた野生種の染色体を識別できるDNAマーカーを使って、効率的に選抜を進める。またその過程では、DNAマーカーの野生種染色体上での物理地図を作製できることが期待される。
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