2013 Fiscal Year Research-status Report
イネの生物的窒素固定に関与する栽培的ならびに遺伝的要因に関する解析
Project/Area Number |
25450021
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
井上 博茂 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 講師 (40260616)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 栽培・作付体系 / 生物的窒素固定 / 重窒素追跡 / アセチレン還元活性 |
Research Abstract |
イネ品種日本晴、カサラス、台中65号およびC5444を供試して、水田土壌をおよび真砂土を用いたイネポット栽培を行い、in situ条件下でアセチレン還元活性(以下ARA)を測定したところ、いずれの土壌を用いた場合においても、イネ出穂期~出穂10日後ころに高いARAを示すことを確認した。しかしながら、ARAの測定では、生物的窒素固定の定量的評価が難しいこと、および高い値を示す時期が4品種間で異なったことから、交雑F2集団などの分離個体集団について、ARAを生物的窒素固定の指標とすることが難しいことが考えられた。 C5444および台中65号について、測定したARAの結果では、いずれの時土壌条件においてもC5444>台中65号となった。一方、イネ収穫後の全窒素濃度については、いずれの土壌条件においてもC5444<台中65号となったが、全乾物重ではC5444>>台中65号となり、全窒素濃度と全乾物重の積で算出される全窒素吸収量については、C5444>台中65号となった。 水田土壌を用いてイネをポット栽培し、栽培後にポットごとに土壌よりDNAを抽出して、窒素固定細菌の存在を確認したところ、すべての土壌において微好気性窒素固定微生物であるAzospirillumおよび通性嫌気性窒素固定微生物であるHerbaspirillumの存在を確認した。一方、真砂土を用いた栽培では、一部の土壌からは、上記2微生物の存在を確認することができなかった。しかしながら、出穂期~出穂10日後のARAは、いずれも大きい値を示していた。このことから、上記2微生物以外の窒素固定微生物に関しても探索を行う必要があることがわかった。 水田土壌および真砂土を土壌培養したところ、水田土壌ではイネ栽培期間を通して無機態窒素がイネに供給されるのに対し、真砂土では無機態窒素がほとんど供給されないことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
土壌培養の結果から、真砂土からのイネ生育期間を通しての無機態窒素の供給がほとんどないことを明らかにするとともに、窒素を施用することで、真砂土のような極端に窒素含有量の小さい土壌を用いてもイネを正常に生育させられることを明らかにした。また、出穂期が異なる分離系統について、その生物的窒素固定を推定するための手法として、ARAの測定では不十分であることも明らかにすることができた。昨年度の実験サンプルについて、重窒素含有率が未測定であるものの、それ以外の窒素形質については分析が終了しており、昨年度の実験結果より、交雑F2集団などの分離個体集団についてその生物的窒素固定を推定するための実験系としては、水田土壌よりも真砂土を用いる方が適当であることが明らかである。また、C5444、台中65号およびそれらの交雑後代集団は、生物的窒素固定の遺伝的評価を行うには非常に適したイネ材料であることを明らかにした。以上のように、生物的窒素固定の量的評価を行うための実験系として、イネC5444、台中65号およびそれらの交雑後代集団(F1およびF2)を供試して、真砂土を用いたポット栽培を行い、重窒素標識された硫安を施用窒素として用いることが最適であることを明らかすることができたことから、概ね順調に進んでいると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
水田土壌、真砂土いずれの土壌を用いたイネ栽培においても、イネ窒素吸収量に品種間差異が認められたが、その差異は真砂土を用いたイネ栽培において顕著であった。土壌培養実験では、水田土壌からは無機態窒素の供給が認められるのに対し、真砂土からは無機態窒素の発現がほとんど認められなかった。これらの結果から、イネにおける生物的窒素固定を評価するには、真砂土を用いたイネ栽培において窒素を添加して栽培することが最適であると考えられる。 ポット栽培における窒素収支については、水田土壌および真砂土の両土壌条件において、脱窒または揮散といったポット系外への窒素の流出が認められた。真砂土においては、土壌中の窒素がほとんどなく、イネへの供給が0とみなされることから、イネが吸収する窒素については、施肥由来の窒素について考慮すればよいことになる。すなわち、施用窒素のイネによる吸収率を向上させることで、系外への窒素流出をある程度抑制できるのではないかと考えている。重窒素で標識された硫安を複数回に分けて施用することで対応し、植物体の重窒素含有率を測定することでイネによる窒素吸収量を算出するとともに、イネ栽培後の土壌について、土壌中の重窒素含有率を測定することで施用窒素の土壌中残存量を算出することで、ポット栽培系外への窒素流出量を推定する。 本年度は、イネとして交雑F2集団(遺伝的に分離する個体集団)を分析することで、生物的窒素固定の農業形質としての評価を試みるとともに、イネにおける遺伝形質としての評価も行う予定である。遺伝的形質としての評価として、F2個体より種子を採種し、次年度に個体別次代F3系統を養成して、既知の標識遺伝子と生物的窒素固定の発現程度との連鎖関係を調査する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
元来、イネおよび土壌の重窒素含有率を測定するためのトレーサーマットの使用にかかる消耗品等の経費として計上していたものであるが、トレーサーマットの不調により、外部委託による測定も考慮する必要が生じた。そのため、他の消耗品の購入を控えた結果、このような執行額となった。 現在、トレーサーマットの修理が検討されているものの、見通しが立っておらず、外部委託による重窒素含有率の測定の可能性が高い。そのため、繰り越された費用を、今年度のサンプル分も併せて測定するための費用として、支出を予定している。トレーサーマットの修理ができれば、費用の計上が不要となるため、その時には実験で扱うイネの個体数を増やしたり、反復数を増やすなどの措置を取り、実験精度の向上に努める。
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Research Products
(1 results)