2014 Fiscal Year Research-status Report
植物病理学のための酢酸ウランに代わるノンアイソトープ電子染色剤の新規開発
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25450059
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
朴 杓允 神戸大学, (連合)農学研究科(研究院), 名誉教授 (20147094)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
池田 健一 神戸大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (40437504)
朴 文守 神戸大学, (連合)農学研究科(研究院), 研究員 (50600417) [Withdrawn]
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 酢酸ウラン / 透過電子顕微鏡 / 非放射性重金属染色 / 塩化ハフニウム / 酢酸ガドリ二ウム / 塩化ガドリ二ウム / 細胞コントラスト / ネガテイブ染色 |
Outline of Annual Research Achievements |
透過電子顕微鏡(TEM)で細胞観察するには切片を酢酸ウランで染色することが不可欠となる。観察に必要なウランは放射活性を有するため日本ではその管理と使用が制限されTEMを使った研究環境が悪化している。このためウランに代わる非放射性重金属染色剤の開発が必要である。電顕像のコントラストは重金属剤の染色効果・溶媒・染色時間・切片の厚さ・染色温度・露光・現像等に左右されてコントラスト増減の評価は難しい。本研究以前に画質の客観的評価のために相対的なTEMコントラスト比法を開発した。本課題前に本法を使って、植物や糸状菌に対するHfCl4メタノール液の染色効果を調べた。その結果、ヘテロクロマチン、生体膜系、オルガネラ基質、グリコーゲン、細胞壁、デンプンを好染する結果を得た。しかし、メタノールによりグリッドの粘着剤が溶けて切片が剥がれる欠点に遭遇し改善が求められた。研究初年度は切片の隔離防止のためHfCl4水溶液を作製し、この液の染色効果について昆虫中腸を使って調査した。HfCl4水溶液は生体膜系、オルガネラ基質、グリコーゲン、膠原繊維に対してよい染色効果を発揮して切片の剥離もなくなった。HfCl4水溶液の染色効果は3ヶ月経過しても減少せず、pHの変動にも染色効果は影響されなかった。本年度はコムギ根に及ぼすGdCl3水溶液と酢酸ガドリ二ウム(GdAc3水溶液)の染色効果について調べた。その結果、ヘテロクロマチン、生体膜系、オルガネラ基質、細胞壁、デンプンが好染して十分に電子染色として使えることが分かった。調査したHfCl4、GdCl3、GdAc3の染色効果はウランの染色性の約70~80%ほどに当たるが、観察に十分に使用できた。また、TMVを使って3つの重金属のnegative染色効果を調べたところ、タンパク粒子の染色性がよく、汚染物の付着が少なく、構造破壊も少ないのはGdCl3であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題の目的は電子顕微鏡(TEM)に使用する非放射性の重金属電子染色剤を開発することにある。電子染色剤に求められる役割は、超薄切片の細胞構造と多糖類に十分なコントラストを賦与して観察を可能とすることにある。この重金属染色をpositive染色と呼ばれている。現在のところ、コントラスト増強に最も優れた染色剤は酢酸ウランであるが、ウランは放射線を出すため日本社会ではその保有と使用が制限されつつある。優秀な染色剤であるウランといえども、植物病理学の素材の植物・カビ・細菌・昆虫に含まれる多糖類(細胞壁・グリコーゲン・膠原繊維・デンプン)を上手く染色できない欠点を有するため、感染時の病原菌と宿主植物の細胞壁の観察に不利な染色剤である。本課題では、初めに画像コントラストを客観的に評価できる方法を開発することから始まった。相対的TEMコントラスト比法により同じ基準で画像のコントラスト評価が行えるようになり、目標の1つは達成できた。細胞構造と多糖類に及ぼす希土類のpositive染色以外にnegative染色も探索した。電子染色剤は生物組織を普遍的に染色できなければならない。このため多数の生物種を染色できることを実証するために植物葉・植物根・昆虫中腸・微生物といった多くの生物組織を調査対象とした。現在まで、調査の終わった重金属は3種(HfCl4、GdCl3、GdAc3)で、3試薬とも酢酸ウランに代わる染色効果を有し,かつ、多糖類をウランよりも好染することが分かった。3試薬のnegative染色効果は今のところGdCl3が優れている結果が得られている。最終年度は(SmCl3、SmAc3, YuCl3)の電子染色性についてコムギ根を用いて調べる。酢酸ウランに代わる細胞構造と多糖類を染色する重金属剤を3つ見出したので、本年度も十分な成果が得られたと判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
画像の客観的評価法(相対的TEMコントラスト比法)が確立したので、研究は前進すると予想できる。この方法を使って、本年度は3種の重金属水溶液(HfCl4水溶液、GdCl3水溶液、GdAc3水溶液)のpositive染色とnegative染色の調査を終えた。3種の重金属は多糖類と細胞構造の生体膜や基質に十分にコントラストを賦与できることが分かった。最終年度は希土類の3つの重金属(SmCl3、SmAc3, YuCl3)とNa2WO4の染色効果について調査を行う。調査完成時には、染色性の良い順に7種の重金属を並べ、重金属間の染色効率の序列を決定する。また、染色剤を調査した重金属から、特定の生物種や細胞成分を好染できる推薦できると思う。染色時のグリッドからの切片剥離や切片上の汚染物の出現といった不具合にかかわる問題を解決するための方法を検討する。また、多くの生物組織の観察に有効であることを証明するため、調査する生物種と組織を増やし染色液がどの生物組織をも染色できることを証明する予定である。
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Causes of Carryover |
本課題では細胞画像の情報をネガで保存し、印画紙に焼き付けてから相対的TENコントラスト解析を行う。電顕の装備されているCCDカメラでは無染色切片の細胞でもコントラストを無理やり賦与するため、CCDカメラによる画像ではコントラストを統一的に評価できない。そのため、この研究では旧来の写真技術を使う。写真に必要な消耗品は、電顕ネガ、印画紙、現像試薬、現像定着試薬である。昨年度、かなりの量を購入して、これら試薬と機材を使ったため、平成25~26年度の物品費の使用が比較的抑えられた。残額を次年度予算として繰り越した。また、学会出張や講演についても講演依頼が多く、想定したほど出張費を使わずに済んだ。得られた成果をまとめて論文を作成中である。平成27年度に論文掲載料として使用する予定である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度は、調査すべき土類金属と生物組織の種類が増えるため、消耗品の中では印画紙と電子顕微鏡ネガの購入が増えると予想される。最終年度の前半には無くなると思われる試薬と機材を多量に購入する。また、研究代表者と研究分担者の成果発表のための講演もいくつか予定している。これらの旅費及び論文掲載費に使用するつもりである。
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[Journal Article] Accelerated senescence and enhanced disease resistance in hybrid chlorosis lines derived from interspecific crosses between tetraploid wheat and Aegilops tauschii2015
Author(s)
Nakano, H.,Mizuno,N.,Tosa,Y., Yoshida,K., Park,P., Takumi,S.
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Journal Title
PLoS ONE
Volume: 10
Pages: e0121583
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Acknowledgement Compliant
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[Journal Article] Polycationic Ruthenium Red is Reactive with the Extracellular Matrix Produced by Plant Pathogenic Fungi2015
Author(s)
Ueno, S., Inoue,K., Ishi, H., Jiang S., Adachi,Y., Kanematsu, A., Park,P., Ikeda, K.
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Journal Title
J. Electr. Microsc. Technol. Med. Biol.
Volume: 28
Pages: 1-7
Peer Reviewed / Open Access
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