2013 Fiscal Year Research-status Report
イネ病害抵抗性におけるサリチル酸の合成・蓄積を制御する分子機構の解明
Project/Area Number |
25450067
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | National Institute of Agrobiological Sciences |
Principal Investigator |
高橋 章 独立行政法人農業生物資源研究所, 耐病性作物研究開発ユニット, 主任研究員 (20414914)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | イネ / サリチル酸 / 病害抵抗性 |
Research Abstract |
これまでの解析から、イネのospti1a変異体では播種後6週前後から、サリチル酸(SA)の過剰な蓄積が始まることが明らかとなっている。そこで、野生型(WT)とospti1a変異体の播種後6週目の葉から抽出した全RNAを用いてマイクロアレイ解析を行い、WTに比べospti1a変異体で強く誘導される遺伝子を2,975個同定した。この遺伝子群の中から、SAの生合成に関与する遺伝子を絞り込むため、ospti1a変異体の遺伝背景にも関わらず、SAの蓄積に変化が見られる2種類の形質転換イネを用いて、同様にマイクロアレイ解析を行った。これらの形質転換イネでは、ospti1a変異体で強く誘導される2,975個の遺伝子うち、2,299個(77%)で影響を受けることが明らかになった。さらに、フェニルプロパノイド合成酵素遺伝子を特異的に制御する転写因子を、一過的に発現させた形質転換イネを用いたマイクロアレイ解析を行い、SA合成に関わる遺伝子を絞り込む準備を進めた。 イネのOsICSがシロイヌナズナのAtICS1と同等のICS酵素活性を有しているか確かめるため、シロイヌナズナのsid2変異体にOsICSを導入した(sid2-OsICS)。sid2-OsICSの細菌病に対する抵抗性を調べたところ、OsICSによるsid2変異体の相補は見られなかった。OsICSはICS酵素として必要なドメインは完全に保存されている。そのため、OsICSがsid2変異体を相補しない理由が、OsICSの酵素活性そのものではなく、ICSタンパク質の安定性あるいは細胞内局在の影響も考えられた。そこでこれらの可能性を調べるため、タグを付与したOsICSのコンストラクションを行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
イネにおけるSAの生合成に関与する遺伝子を絞り込むため、ospti1a変異体に加え、ospti1a変異体の遺伝背景にも関わらず、SAの蓄積に変化が見られる2種類の形質転換イネを用いたマイクロアレイ解析を完了し、比較解析を行った。さらに、フェニルプロパノイド合成酵素遺伝子を特異的に制御する転写因子を、一過的に発現させた形質転換イネを用いたマイクロアレイ解析も完了した。これらのデータについて比較解析を行うことにより、SAの生合成に関与するイネの候補遺伝子を絞り込むことが出来ると期待される。 さらに、OsICSがシロイヌナズナのsid2変異体を相補できないことが明らかとなった。この原因を解明することにより、イネにおいて病害抵抗性時にICS経路が活性化されない理由を明らかに出来ると期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
フェニルプロパノイド合成酵素遺伝子を特異的に制御する転写因子を、一過的に発現させた形質転換イネを用いて行ったマイクロアレイ解析の結果を詳細に分析し、ospti1a変異体、及びSAの蓄積に変化が見られる2種類の形質転換イネにおける遺伝子発現と比較を行うことにより、SAの生合成に関与するイネの候補遺伝子を絞り込む。候補となる遺伝子が絞り込めた場合、N. benthamianaにおける一過的発現系を用いてSA合成に関わる遺伝子であることを証明する。また、候補遺伝子群がイネの病害抵抗性に関与するかについて解析するため、過剰発現体の作成ならびにノックアウト変異体の探索を始める。 タグを付与したOsICSならびにAtICS1を導入した形質転換シロイヌナズナを作成し、ICSタンパク質の細胞内における安定性、細胞内局在について解析を行う。さらに我々が最近開発した、イネ変異体系統群からの効率的な変異体のスクリーニング法により、OsICSのノックアウト変異体を探索し、イネにおけるICSのLoss-of-functionについて解析を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度、形質転換体の作成・維持のため研究支援者1名の雇用を予定していたが、形質転換体の作成開始が遅れたため、支援者の雇用を見送り自ら行った。また、本年度行ったマイクロアレイ解析では、使用する材料が形質転換体であることから、系統数ならびに反復数を多めに計画していたが、再現性の良い結果が得られたため予定より低い予算で終了した。 形質転換体の作成・維持のため研究支援者1~2名雇用し、SA合成に関与する酵素遺伝子について形質転換体の作成を進め、得られた形質転換体を用いて、病理学的、生化学的、生理学的な解析を行う。また、SA合成に関与する酵素遺伝子やOsICSなどのノックアウト変異体の探索を大規模に行う。さらに、フェニルプロパノイド合成酵素遺伝子を特異的に制御する転写因子を一過的に発現させる系は、まだ発現が安定しないため、この転写因子の形質転換イネを用いたマイクロアレイは再現性を得るため、次年度に追加のマイクロアレイ解析を行う必要がある。
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