2014 Fiscal Year Research-status Report
マイクロチューブを成す塩基性分岐多糖の構造決定と形態形成機作の解明
Project/Area Number |
25450148
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
武田 穣 横浜国立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40247507)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | Thiothrix nivea / 鞘 / デオキシ糖 / 構造決定 |
Outline of Annual Research Achievements |
26年度は計画に従ってThiothrix niveaの(マイクロチューブ)鞘を形作る塩基性分岐多糖の構造決定を主たる達成目標として研究を行った。まず、鞘の可溶化について検討を行った。鞘形成多糖(主鎖はグルコサミノグルカン)にはグルコサミン残基に由来するアミノ基が存在するので、アセチル化などの置換を受けていなければ酸性下での電離による静電的反発力が期待できる。そこで、存在するかもしれない置換基を除くため、鞘に対してアルカリ処理を施した。その後、種々の鉱酸および有機酸酸性での可溶化を試みた。その結果、ギ酸酸性下において良好な溶解がもたらされることが判明した。この溶液をNMR測定に供し、プロトンおよびカーボンシグナルの解析を行うことによって、5員環を成すデオキシ糖がすべてのグルコース残基の3位にグリコシド結合している可能性が示された。3位へのグリコシド結合は化学的手法(スミス分解)によって裏付けられた。ただし、主鎖のNMRシグナルとの重なりの影響によって詳細な解析が難しく、デオキシ糖の同定には至らなかった。そこで、デオキシ糖を遊離させてNMR解析による構造解析を行うこととした。鞘に対して弱い塩酸処理を施してデオキシ糖を選択的に遊離させた。これを誘導体化(ABEE化)後にHPLCで精製し、NMR測定に供した。シグナルの解析によってデオキシ糖は、5-デオキシ-3-ヒドロキシメチル-ペントースの一種であることが判明した。誘導体に対して質量分析を行うことによって算出した分子量からもこの可能性が支持された。非常に珍しいこのデオキシ糖残基に起因する強い相互作用が静電的反発力を凌駕して多糖の凝集(マイクロチューブの形成)をもたらすと思われる。残る達成目標(鞘の荷電状態の把握、鞘の伸長パターンの解明、グルコサミノグルカンの立体構造予測)についても次年度の本格実施に先立って予備的な検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究開始時に掲げた達成目標(①-⑤)のうち、①T. fructosivorans の鞘形成多糖の基本構造決定は25年度に達成し、グルコース・グルコサミンβ-1,4交互共重合体を主鎖とし、そのグルコース残基の3位にフコース(デオキシ糖)とペロサミン(希少なデオキシアミノ糖)の2糖(いづれもデオキシ糖)が結合していることがわかった。26年度には②T. nivea の鞘形成多糖の基本構造の決定に重点を置いて研究を行った。その結果、T. fructosivoransの鞘形成多糖と同様に、主鎖中のグルコース残基の3位にはデオキシ糖が結合していることが判明した。ただし、T. nivea の場合には2糖ではなく極めて稀有な単糖(5-デオキシ-3-ヒドロキシメチル-ペントース)が結合していた。すなわち、Thiothrix属型鞘形成多糖の共通の特徴は主鎖に見出され、多様性は側鎖部分において顕著であることがわかった。すなわち、Thiothrix属型鞘形成多糖の化学的特徴づけをおこなうことができた。そして、側鎖のデオキシ糖間に強い相互作用が生じることによって凝集(マイクチューブ形成)が引き起こされるとの新たな仮説に至った。残る達成目標は、③鞘の荷電状態の把握、④鞘の伸長パターンの解明、⑤グルコサミノグルカンの立体構造予測であり、これらについても見通しが立った。したがって、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度の目標は①鞘の荷電状態の把握、②鞘の伸長パターンの解明、③グルコサミノグルカンの立体構造予測である。①については、菌体の分散状態に及ぼすpHの影響をすることによって、そのあらましが見え始めている。すなわち、T. fructosivoransの細胞表面は鞘の化学組成から想定されるように中性ないし弱塩基(陽性荷電)性を示し、T. nivea の細胞表層は酸(陰性荷電)性を示すことがわかった。T. fructosivoransは鞘が最表層にあるが、T. niveaの鞘表面ないし鞘中には酸性高分子物質が存在すると予想される。そこで、想定される高分子物質の回収と同定を目指すこととする。②については、蛍光標識化レクチンでは鞘は部分的(斑)にしか標識化されないことがわかり、アミノ基の標識を検討すべきと考えている。③については、高速演算可能な計算機を組み立て、これに必要なソフトウェアをインストールして短時間の分子動力学計算を行い正常に作動することを確かめた。今後は長時間の分子シミュレーションを行い、これと並行して構造情報を取得すべくグルコサミノグルカンを溶液NMR測定に供する。そして、計算で得られた安定構造の確からさを溶液NMRデータ(プロトン間距離)で検証する予定である。さらに、同様の計算条件でセルロースおよびキトサンの分子シミュレーションも行って結果を比較することにより、グルコサミノグルカンの立体構造上の特徴を明らかしようと考えている。
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