2013 Fiscal Year Research-status Report
水素結合形成の異なるセルロース誘導体を用いた非結晶領域の分子凝集状態の解明
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25450252
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Forestry and Forest Products Research Institute |
Principal Investigator |
菱川 裕香子 独立行政法人森林総合研究所, バイオマス化学研究領域, 主任研究員 (80343797)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | セルロース / 非結晶領域 / 分子凝集状態 / 気相重水素化 / 赤外分光法 |
Research Abstract |
セルロースの構造は、結晶領域と非結晶領域に大別される。セルロース材料の物性は、非結晶領域中での分子凝集状態に起因する水素結合の影響を受けやすい。従って、セルロースからの新規材料創製、あるいは、既存材料の機能向上を図るにあたっては、セルロース分子が有する水酸基による分子間、分子内水素結合形成が非結晶領域の分子凝集状態に与える影響を詳細に把握する必要がある。しかし、純粋なセルロースでは、分子間、分子内水素結合が複雑に形成され、詳細に検討することができない。そこで、本課題では、水素結合形成が制御された2種類の位置選択的置換メチルセルロースを用いて、水素結合形成が異なる非結晶領域中での重水分子の拡散、即ち、重水素置換される水酸基のアクセシビリティから、非結晶領域の情報を得ることを目的としている。 当年度は、1. 既報に則り、純粋なセルロースを用いて位置選択的置換2,3-ジ-O-メチルセルロース(23MC)の調製を行い、2. 23MCから非結晶性フィルムを調製した後、このフィルムに、研究代表者が考案した気相重水素化二次元赤外法を適用し、水酸基に由来するバンドの減少に基づいて解析を行った。その結果、「1」に関しては、メチル基の導入が2800~3000cm-1の赤外スペクトル上にて確認された。「2」に関しては、3つの反応速度が得られたことから、少なくとも3種類の分子凝集状態の異なるドメインがフィルム中に存在することが示唆された。さらに、各ドメイン中にて主に重水素化された水素結合の波数の検出を試みたところ、各ドメインに共通して含まれる水素結合は3447cm-1であることが判明した。23MCは、未置換のC6位の水酸基とC2位の酸素の間に分子内水素結合を1本形成することから、3447cm-1の水素結合は、上記の分子内水素結合に由来すると推察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の初年度計画では、純粋なセルロースを用いて、水素結合形成が制御された位置選択的置換2,3-ジ-O-メチルセルロース(23MC)の調製を行うところまでを計画していたが、23MCを調製した後、次の段階の実験へと進むことができたため、23MCから非結晶性フィルムを調製し、このフィルムに、研究代表者が考案した「気相重水素化二次元赤外法」を適用した。その結果、フィルム中には少なくとも3種類の分子凝集状態の異なるドメインが存在することが判明したことから、非結晶領域中でのセルロース分子は、従来言われていることとは異なり、ランダムには存在していないことが示唆された。さらに、赤外スペクトル上での非結晶領域における分子内水素結合の帰属の可能性をも示すことができた。このように、セルロースからの新規材料創製、あるいは、既存材料の機能向上に向けて、水素結合形成が制御された位置選択的置換メチルセルロースを用いて非結晶領域の情報を得る、という本課題の目標は順調に達成されている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後最終年度が終了するまでに、以下の実験、解析を通して、セルロース分子の水酸基が分子の凝集に与える影響を解明する予定である。「1」位置選択的置換2,3-ジ-O-メチルセルロース(23MC)を調製する。次に、結晶性23MCフィルムを調製した後、このフィルムに気相重水素化二次元赤外法を適用し、水酸基に由来するバンドの減少に基づき、相対結晶化度の変化が下記項目に与える影響を明らかにする、(1)非結晶領域中での分子凝集状態、(2)赤外スペクトル上における、ドメイン中の水素結合。「2」23MCとは異なる位置選択的置換メチルセルロース:6-O-メチルセルロース(6MC)を調製する。次に、6MCからフィルムを調製した後、このフィルムに気相重水素化二次元赤外法を適用し、水酸基に由来するバンドの減少に基づき、下記項目を明らかにする、(1)非結晶領域中での分子凝集状態、(2)赤外スペクトル上における、ドメイン中の水素結合。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費の次年度使用額(9,163円)が生じた。これは、平成26年3月16日~3月20日に米国テキサス州ダラス市にて開催された、第247回アメリカ化学会春季大会に参加した際の航空券が、円高により当初の予定額よりも安価で入手できたからである。 この次年度使用額は、平成26年度の旅費に追加(合計額409千円)し、第249回アメリカ化学会春季大会、第21回セルロース学会年次大会等へ出席して成果発表や研究情報交換を行うために使用する予定である。旅費以外では、物品費として600千円を予定している。この物品費は、赤外分光光度計用の光源、試料の調製に必要な試薬やガラス器具等の購入のために使用する予定である。
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Research Products
(1 results)