2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25450268
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
水田 浩之 北海道大学, 水産科学研究科(研究院), 教授 (00250499)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | コンブ類 / 抵抗性 / 活性酸素 / 赤色光 / リグニン |
Research Abstract |
安定的かつ高品質のコンブ類の生産を持続する上で、それらが持つ抵抗力を向上させることは極めて有効な手段と言える。そこで、コンブ類の抵抗力がどのような外的条件で誘導・増強されるのかを明らかにするために培養実験を行った。まず抵抗性を誘導する条件として光質に注目し、マコンブ幼胞子体を異なる波長の発光ダイオード(LED)照射条件下(白色光、青色光、緑色光、赤色光)で培養した。その際、水温、光量、光周期等の光質以外の条件を同一にした。その結果、赤色光下で培養した幼胞子体葉状部の伸長速度は、緑色光や青色光下で培養した幼胞子体に比べ有意に低い値を示した。また、赤色光で培養した幼胞子体では他の光質条件下で培養したものに比べ、有意に高い活性酸素の発生が観察された。一方、防御応答に深く関わることが知られるフェニルアラニンアンモニアリアーゼ活性、ポリフェノールオキシダーゼ活性およびポリフェノール含有量に有意な差は認められなかった。しかし、赤色光下で培養した幼胞子体では、他の光質で培養した幼胞子体に比べ、フラボノイド含有量の低下とリグニン含有量の増加が観察された。また、赤色光を照射された幼胞子体は、他の光質で培養した藻体と触感が異なり、色調も薄くなり、柔軟性が低下する一方で組織の硬化を導いていると思われた。これらのことから、赤色光のコンブ類への照射は、防御機構の活性化に関わるシグナルとして働いていると考えられる活性酸素の発生を誘導すると共に、ポリフェノール代謝に質的な変化をもたらし、構造的隔壁に貢献するといわれているリグニンの生産を促進していることが示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コンブ類が持つ潜在的な抵抗力がどの様なメカニズムで起こっているかを調べつつ、その抵抗性を向上させることが、安定的かつ高品質のコンブ類の生産を維持する上で極めて重要である。そのため平成25年度は、傷害組織の観察と傷害修復実験、活性酸素の発生を起源の一つとする微弱発光現象の検出、および抵抗性誘導物質の検索を柱に研究を進めてきた。その結果、傷害を受けた組織が治癒していく過程で、ポリフェノール類の沈着などが起こっていることが観察された。また、赤色光照射が防御代謝を活性化させるシグナルとして機能する活性酸素の発生や生体防御や細胞壁強度の付与等の機能を持つリグニンの合成を促進していることを明らかにした。このことは、赤色光照射が薬剤を使わない抵抗性誘導条件の一つとして有用であることを示唆するものである。さらに、マコンブの胞子体片において、微弱発光現象が検出され、その発光強度は傷害を受けることで上昇することが分かった。このことは、微弱発光現象が誘導物質や誘導条件の検索にとどまらず、海藻の生理状態の把握に有用な指標にもなることを意味し、非破壊かつ非接触で測定できるという利点からも、今後大いに期待される技術となると思われた。以上の結果は、コンブ類が持つ環境応答のメカニズム解明や抵抗性向上に向けた安全で実用的な条件解明に向けて、基礎的かつ重要な情報を提供するものであり、本研究は、おおむね順調に進行しているものと判断される。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究結果から、コンブ類において抵抗性を付与する物質としてリグニンの関与が示唆され、その沈着を促進する赤色光の照射が有効な抵抗性誘導条件の一つとなる可能性が示唆された。しかしながら、赤色光のみの照射は、付着器の伸長を促進し付着力を強化する一方で葉状部の生長を著しく低下させることから、赤色光に異なる波長の光を一定の割合で組み合わせた新たな光質条件下で胞子体を培養していく必要があると考えられた。その為、今後光質を可変的に調整できるシステムを構築し、そのシステム内で培養実験を行うことにより、より効果的な抵抗性向上条件の検索が推進されていくものと考える。また、赤色光の照射がマコンブ胞子体においてリグニンの合成だけでなく活性酸素の発生を増加させたことから、活性酸素の発生とリグニン合成・沈着との関係についても培養実験を通じてより詳しく調べていくことがコンブ類の防御機構を解明する上でも必要である。さらに、ストレス応答の指標として検出可能であることが分かった微弱発光の測定をコンブ類に有効に適用することにより、新たな抵抗性誘導物質や抵抗性誘導条件解明の推進が図られると思われる。加えて、天然環境からも抵抗性誘導条件の解明の糸口になる情報を得るため、異なる環境下で生育したコンブ胞子体を用いて、上述の抵抗性に関連する各種活性や成分含有量を比較し、その生育環境と胞子体の関連性を解明することでより有用な抵抗性誘導条件の把握が進むと考えている。
|