2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25450268
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
水田 浩之 北海道大学, 水産科学研究科(研究院), 教授 (00250499)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | コンブ類 / 抵抗性 / 活性酸素 / エリシタ― / 化学発光 |
Outline of Annual Research Achievements |
コンブ胞子体の抵抗性を評価する手法の確立を目指し、マコンブ胞子体においてエリシターに応答して発生する活性酸素をルミノールを用いて検出することを試みた。ルミノールを添加した滅菌海水10 mLの入ったシャーレに幼胞子体 (葉長1-3 cm) あるいは胞子体ディスクを入れ、エリシター (オリゴグルロン酸:150 μg/mL) 添加後の発光量をモニターした。発光量は、10℃のインキュベーター内の暗所で、フォトンカウンター (Photon Counter SUC-100 Ver1.5 サイエンテックス社製) を用いて測定した。 その結果、幼胞子体と胞子体ディスクをエリシター処理した後、何れの材料からも発光強度が増加し、20分以内に最大値に達した。その後減少し、50分後以降、添加前より高い値で一定となった。この最大発光値は、幼胞子体の方が胞子体ディスクに比べ高かった。また、ルミノール発光量は過酸化水素と正の相関を示したことから、エリシター応答発光量の上昇は活性酸素種の上昇に起因していると考えられ、防御応答の程度を示す良い手がかりになると考えられた。一般的にエリシター処理に起因する応答発光が増強した個体は、病原菌やエリシターに対する防御反応を迅速に、より強く誘導するプライミング状態にあり、抵抗性の高い個体と考えられている。そのため、マコンブ胞子体においては若い組織ほど防御反応がより敏感に強く誘導されることが示唆された。また、異なった傷害を与えた幼胞子体においてエリシタ―処理に伴うルミノール発光の最大値や無傷個体と同等の発光レベルに低下するまでの期間は、その傷害の性質や部位によっても異なっており、藻体のストレスに対する抵抗状況を把握する良い指標となると考察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コンブ藻体の抵抗力を向上させる技術の開発を目指し、平成26年度は特にコンブ類の胞子体の抵抗性を評価する方法として、ストレス応答に起因して発生する活性酸素種を発光現象として検出することを試みた。その結果、不可逆的なストレスを受け視覚的にも明らかに障害を受けていることが分かる藻体から、バイオフォトン(いわゆる微弱発光)を検出することができた。しかし、視覚的に正常な藻体においてはエリシタ―処理に伴うバイオフォトンの発生を検出することができなかった。そこで、エリシタ―処理に伴い発生する活性酸素をルミノールを用いた化学発光で検出する手法の適用を試みた。その結果、エリシターに応答したルミノール発光の増強反応を検出することができた。一般的に、エリシター処理後の発光強度の程度や反応の速さは、抵抗性を評価する良い指標になると考えられており、コンブにも十分適用できると思われ、今後抵抗性誘導物質の検索に応用できるものと考えられた。また、同時に進めてきた抵抗性向上に向けた条件の検索では、昨年度に引き継き赤色光照射の有効性を検証するため、赤色照射光に伴う幼胞子体の物理的強度の指標として硬度の測定を試み、他の光照射で処理した幼胞子体の硬度と比較したところ、赤色光照射個体で相対的に高い硬度を示すことが分かった。これらの成果は、今後のコンブ類が持つ環境応答に対するメカニズム解明や抵抗性向上に向けた安全で実用的な技術の開発に向けて、基礎的かつ極めて重要な情報を提供するものであり、現在までの本研究の達成度は、おおむね順調に進行しているものと判断された。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究において、アルギン酸を用いて調整したオリゴグルロン酸をエリシターとしてマコンブ胞子体を処理したところ、そのエリシターに応答したルミノール発光の増強反応を検出することができた。これにより、コンブ胞子体の抵抗性を評価する手法として、エリシター応答化学発光のモニタリングの有用性が示唆された。次年度はさらに、より感度の高いエリシターを検索すると共に、エリシターに対して強くかつ迅速な応答を導くような抵抗性誘導物質の探索やそれらを持続させるための培養条件の検索を行うことにより、より効率的な抵抗性向上条件の把握が進んでいくものと考える。また、現在までに葉状体の物理的強度を増加させることが明らかになっている赤色光照射は、その一方で光合成活性の低下や成長の制限といった問題点などを有している。そこで、赤色光照射による抵抗力強化をより現実的なものにするため、様々な波長を組み合せた条件で培養した葉状体の硬度測定を試み、赤色光単色照射で見られる利点を生かしつつ、欠点を補う光質条件設定を検討する必要があろう。そのため、光波長組成の可変的に設定できる照射システムを構築し、成長と硬度の適切なバランスをもたらす光質条件を調べていく予定である。さらに、巨視的世代である胞子体から微視的世代である配偶体への世代交代時において、遊走子と呼ばれる生殖細胞と共に放出される活性酸素やフェノール類などの物質に着目し、それらの物質の世代を超えた抵抗性付与に対する効果について検討することで、より有用な抵抗性誘導条件の解明が進むと考えている。
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