2013 Fiscal Year Research-status Report
ウナギの変態に関する機能形態学的ダイナミクスとその応用
Project/Area Number |
25450270
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
黒木 真理 東京大学, 総合研究博物館, 特任研究員 (00568800)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ウナギ / 変態 / 浸透圧調節 / 骨格形成 |
Research Abstract |
ウナギの変態は、形態・生理・生態に大転換を伴う個体発生上極めて重要なイベントである。しかし、その変態過程や変態の引金機構に関する知見は不足している。一方、ウナギ人工種苗の生産技術開発研究においては、変態の遅延や変態前後の死亡率、奇形率の高さがウナギ完全養殖技術確立の妨げとなっている。本研究では、ニホンウナギの変態過程で起こる諸器官・組織の変化を明らかにするとともに、海洋仔魚期から淡水底生生活期に移行する過程の浸透圧調節機構を解明することを目的とした。まず、レプトセファルスの体表構造および浸透圧調節に重要とされる塩類細胞を調べて、成魚の鰓塩類細胞と比較した。体表の塩類細胞の分布を調べたところ、体表全体に塩類細胞が分布していることがわかった。走査型電子顕微鏡を用いた塩類細胞の観察によると、塩類細胞の頂端膜は若干突出し、開口部では塩類細胞とアクセサリ細胞が指状嵌合していることがわかった。さらに透過型電子顕微鏡で観察すると、アクセサリ細胞が塩類細胞を覆う構造をとり、成魚の鰓の塩類細胞と比べて電子染色による塩類細胞全体の染色性は弱い傾向にあった。特異的な抗体を用いたイオン輸送タンパクの免疫染色の結果、海水型塩類細胞で発現するCFTR とNKCC1 は、それぞれ塩類細胞の頂端膜と側底膜に発現が認められた。以上の結果から、ウナギは仔魚期には鰓が十分に発達していないものの、体表全体に分布する塩類細胞が浸透圧調節の役割を担っていることが示唆された。また、変態過程における甲状腺の機能を調べるため、甲状腺ホルモン、甲状腺刺激ホルモンの測定とともに甲状腺の組織学的観察を行った。抗T4抗体を用いて免疫染色を行ったところ、濾胞内のコロイドが染色されて甲状腺が活性化していることが確認され、変態期には濾胞上皮細胞が肥厚して甲状腺で甲状腺ホルモンが産生・蓄積されていることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ウナギの変態の引金機構を解明することを目的とし、飼育実験により要因の探索を行った。今年度は、まず甲状腺および浸透圧調節器官である塩類細胞に焦点を当て、その形態的・機能的な変化を明らかにした。変態に深い関わりをもつ甲状腺について、レプトセファルスからクロコまで一連の発育段階のサンプルを用いて、ホルモンの動態を明らかにするとともに甲状腺の組織学的観察を行った。これらの結果を原著論文としてとりまとめた。100%海水で飼育されたレプトセファルスと成魚の塩類細胞を機能形態学的に比較し、その浸透圧調節機能の役割について明らかにした。レプトセファルスの塩分濃度については、人工レプトセファルスでは自然環境の100%海水よりも50%希釈海水で生残率、成長率がともに高いことが知られているので、さらに異なる塩分濃度の3 区(20%希釈海水, 50%希釈海水, 100%海水)におけるレプトセファルス幼生の飼育実験を実施し、各塩分環境における浸透圧適応に関する実験を進めている段階であり、概ね順調に研究は進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
ウナギの変態過程における骨形成の状態を明らかにするため、Alcian Blue とAlizarin Red を用いた二重染色法により骨格形成過程を観察する。器官形成については、走査型・透過型電子顕微鏡を用いて組織学的な観察を行い、各発育段階における諸器官の発達過程を記述する。全データを総合して、変態に伴う器官形成過程をとりまとめる。また、レプトセファルスの体成分の大部分を占めるグリコサミノグリカンに着目し、変態過程におけるグリコサミノグリカンの消長を組織学的観察と体成分分析によって明らかにする予定である。さらに、定量real-time PCR 法により、ウナギの腸上皮細胞に発現してNa+とCl-の吸収を担うイオン輸送タンパクの発現量を測定し、変態に伴うイオン輸送タンパクの発現量変化と部位別発現量を観察し、浸透圧調節機能の発達過程を解明する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度は、協力機関の研究所において長期飼育実験に使用できる変態前後の人工ウナギ仔魚のサンプル数が十分でなかったため、レプトセファルス幼生の浸透圧調節機能に関する解析および変態期前後の甲状腺の組織観察を優先させて実験をすすめた。したがって、大学と研究機関を往復する旅費および実験試薬などの物品に支出する金額が予定より少なくなった。 次年度は、ウナギ仔魚の飼育実験を実施し、骨格形成過程と器官形成について組織学的観察を行うとともに、仔魚の主成分であるグリコサミノグリカンの消長を組織学的観察と体成分分析によって明らかにする予定である。また、変態に伴うイオン輸送タンパクの発現量変化と部位別発現量を観察し、浸透圧調節機能の発達過程を解明する。得られた結果は、今年度の結果とあわせて学会発表で発表するとともに、原著論文としてとりまとめる予定である。
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Research Products
(1 results)