2014 Fiscal Year Research-status Report
アユ冷水病の発生メカニズムの解明:生活史履歴解読からのアプローチ
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25450283
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
高井 則之 日本大学, 生物資源科学部, 准教授 (00350033)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
間野 伸宏 日本大学, 生物資源科学部, 講師 (10339286)
桑江 朝比呂 独立行政法人港湾空港技術研究所, その他部局等, チームリーダー (40359229)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | アユ / 冷水病 / 種苗放流 / 餌環境 / 安定同位体 / 多摩川 |
Outline of Annual Research Achievements |
アユ釣り解禁に伴う生息環境の変化がアユの冷水病発症に及ぼす影響を検討するため,種苗アユの放流が行われている多摩川水系において冷水病の保菌調査と安定同位体比分析による採餌履歴の推定を行った.種苗放流アユの保菌検査を実施した結果,高い保菌率で原因菌が検出されたことから,種苗放流が冷水病の主要な感染経路になっていたことが示唆された.アユ釣りの盛んな支流地点では,アユ釣り解禁前の6月上旬に保菌率が37.5%,発症率が18.8%であったのに対し,解禁から一週間を経た6月中旬には保菌率が82.9%,発症率が43.9%まで上昇していた.この結果から,6月上・中旬の生息環境の変化により,冷水病の感染と発症が急激に進んだことが示唆された.多摩川水系で採集されたアユの安定同位体比分布は,3つのグループ(A・B・C)に分けられた.グループAはδ13C値が低くδ15N値が高い分布で特徴づけられたのに対し,グループCはδ13C値が高くδ15N値が低い分布で特徴づけられた.グループBの同位体比分布は,グループAとCの中間にあった.本流下流地点と本流中流地点で採集されたアユはどちらもグループAに含まれていたのに対し,アユ釣りの盛んな支流地点のアユは,グループBとCに明瞭に分かれた.グループBの同位体比分布は種苗放流アユの同位体比分布と重なっていたことから,グループBは放流直後の種苗アユであったと考えられる.2013年度の結果では,冷水病の発症はグループCのみで認められたが,2014年度の結果では,グループBとCで発症が認められた.2014年度には,冷水病に感染した種苗放流アユが,放流後間もなく環境変化によるストレスを受けて冷水病を発症していたと考えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2013-2014年度の活動により,冷水病保菌調査,耳石輪紋解析,胃内容物調査,および安定同位体比分析のいずれにおいても成果を得ることができたことから,おおむね順調に進展していると見なすことができる.特に多摩川水系では,安定同位体比分布に基づいて,生活史履歴の異なるグループを明瞭に分けることができたことから,冷水病が発症する過程についての考察が進んだ.多摩川支流では,冷水病に感染した種苗放流アユが,放流後間もなく環境変化によるストレスを受けて冷水病を発症していると考えられる.最終年度では,ストレスの原因となる環境要因として採餌環境に焦点を当て,採餌環境の経時変化と局所的差異を調べることにより,種苗放流アユが冷水病を発症する過程における採餌環境の関与について検討する予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
耳石輪紋解析と胃内容物調査については,昨年度の活動で既にまとまった結果が得られているので,今年度からは実施していない.今年度,多摩川水系に絞って冷水病保菌調査と安定同位体比分析を実施したことにより,種苗放流と冷水病発症の関係性について解明が進んだ.次年度は,石面付着物や底生無脊椎動物の種組成と安定同位体比分布を重点的に調べることにより,アユの採餌環境の経時変化と局所的差異を明らかにし,種苗放流アユが冷水病を発症する過程における採餌環境の関与について検討する予定である.
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Causes of Carryover |
分担者は,今年度の配分予算により,安定同位体比分析時の試料秤量に必要な電子天秤を購入した.次年度も高価な分析関連備品を購入する必要があるが,次年度の配分予算のみでは購入費が不足するため,今年度の残額の69.860円を次年度の予算として繰り越すことにした.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
安定同位体比質量分析計の消耗部品を購入する予定である.
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Research Products
(6 results)