2014 Fiscal Year Research-status Report
種苗生産におけるグリーンウォーター技術の高度化と汎用性の強化
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25450286
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Research Institution | Kinki University |
Principal Investigator |
江口 充 近畿大学, 農学部, 教授 (40176764)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | グリーンウォーター / 微細藻類 / ARISA解析 / 種苗生産 / 珪藻類 / 腸内細菌叢 / 養殖エビ / EMS |
Outline of Annual Research Achievements |
種苗生産で用いるグリーンウォーター(微細藻類)技術の効果について、1)養殖魚の腸内細菌叢への影響をマダイとトラフグについて検討し、2)汎用性強化の観点から、珪藻類(Chaetoceros gracilisとC. calcitrans)にもナンノクロロプシスと同じような効果が存在するのか否かについて、養殖エビで世界的に問題になっているEarly Mortality Syndrome(EMS)の原因菌(Vibrio sp.)を対象として検討した。 1)マダイとトラフグの腸内細菌叢:近畿大学水産養殖種苗センターすさみ事業場にて平成26年度に種苗生産されたマダイとトラフグ(受精卵から沖出までの1ヵ月間)の飼育水、餌と仔稚魚の消化管の各試料を採取した。各試料中の細菌叢解析にはARISA法を用いた。その結果、マダイとトラフグの飼育水や餌試料の細菌叢はそれぞれにおいて特徴的な細菌叢を形成していたが、マダイとトラフグの腸内細菌叢は類似していた。なお、腸内細菌として偏性好気性でプロバイオティックス効果が確認されているArthrobacter sp.に近縁な配列を両魚種から確認した。 2)珪藻のグリーンウォーター効果:珪藻類の試験では、珪藻の培養濾液に魚病細菌に対して効果の見られたRoseobactorグループの善玉菌(Sharifah & Eguchi,2011. doi:10.1371 /journal.pone.0026756)とEMS原因菌(Vibrio sp. 2株)を共培養した。その結果、同じキートセロスであっても、今回の組み合わせの場合、C. gracilisではあまり抑制効果が見られず、C. calcitransではEMS原因菌2株のうち一方に増殖抑制効果を示した。これは微細藻類、善玉菌、悪玉菌の種類の様々な組み合わせにより、グリーンウォーター効果に変化が生じることを示唆する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
哺乳類などの場合、腸内細菌叢がその生物の免疫力などに密接に関連することが報告されいる。腸内細菌叢をいかに上手く整えるか、善玉菌と悪玉菌のバランスをいかに制御するかが重要になる。魚類の腸内細菌叢とその健康状態については未だ不明な点が多いが、哺乳類に見られるような現象は十分に予想できる。昨年度確立したDNA抽出法によるARISA法により養殖魚の腸内細菌叢がどのように形成されるのかという課題に本年度から本格的に取り組んだ。養殖魚は口から飼育水や餌を取り込むため、飼育水や餌の細菌叢が腸内細菌叢に影響することが考えられる。本年度の実験結果から、細菌叢の多様性は飼育水>餌>腸内となることが分かった。これは飼育水や餌中の細菌群が仔稚魚の体内に入った場合、腸内に定着し易い細菌とそうでない細菌が存在することを示唆する。 本研究課題の最終目標のひとつはグリーンウォータ技術を使って健康な仔稚魚を育成することである。本年度の成果はグリーンウォータ技術が仔稚魚の腸内細菌叢の制御に繋がる可能性を示す。これは順調に研究がステップアップしていることを意味する。 もう一つの本研究課題の最終目標はグリーンウォータ技術の汎用性の強化である。従来の研究では微細藻類がナンノクロロプシスに限られ、対象となる悪玉菌もビブリオ属の魚病細菌のみであった。本年度の研究では特に世界的に問題になっている養殖エビ(Panaeus vannamei)のEarly Mortality Syndrome(EMS)の原因細菌を対象とし、エビ養殖池で最もよく増殖する珪藻類について、グリーンウォータ効果を調べた。 同じキートケロス属の珪藻であってもグリーンウォータ効果が異なり、また対象となる悪玉菌の種類によってもその効果が異なることが明らかになった。これは汎用性の強化という点において有用な情報になる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の実験結果から、細菌叢の多様性は飼育水>餌>腸内となることが分かった。これは飼育水や餌中の細菌群が仔稚魚の体内に入った場合、腸内に定着し易い細菌とそうでない細菌が存在することを示唆する。今後はグリーンウォーター(微細藻類)⇒動物プランクトン(ワムシなど)⇒仔稚魚という一連の食物連鎖が、仔稚魚の腸内細菌叢の形成にどのように影響しているのか、仔稚魚の腸内細菌叢の形成メカニズムを明らかにする必要がある。そのため、引き続き種苗生産現場における飼育水、餌、仔稚魚腸内の細菌叢の解析データを蓄積する必要がある。 微細藻類及び対象となる病原細菌の種類の違いがグリーンウォーター効果に影響することが平成26年度の研究結果から明らかになった。微細藻類と病原細菌の組み合わせは極めて多様である。平成27年度は最終年度であることから、確実に研究を進めるため、使用する微生物の種類を広げない。悪玉菌としてはビブリオ属の病原細菌に絞る。従来のビブリオ属の魚病細菌に加え、世界的に問題になっている養殖エビのEMS病のビブリオ属の原因菌を平成26年度に引き続き対象悪玉菌として研究を実施する。日本は世界一のエビの消費国でありEMSにより多大な被害を受けている。このEMS対策は喫緊の要事である。対象とする微細藻類としては、ナンノクロロプシスに加えてエビ養殖で最も用いられる珪藻類を使用する。
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Research Products
(1 results)