2014 Fiscal Year Research-status Report
数種のアリと任意共生を行うシジミチョウ幼虫の化学的適応様式の解明
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25450487
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
大村 尚 広島大学, 生物圏科学研究科, 准教授 (60335635)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
渡辺 通人 都留文科大学, 文学部, 講師 (20405088) [Withdrawn]
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 任意的共生 / シジミチョウ幼虫 / アリ / 随伴行動 / 体表脂質 / 蜜腺分泌物 / 伸縮突起分泌物 / 化学分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
1)幼虫伸縮突起分泌物の化学分析:ミヤマシジミ(ミヤマ)幼虫から伸縮突起15本を摘出・溶媒抽出してGC-MSで化学分析した。主成分の一つとして、幼虫の体表脂質中にはほとんど含まれないスクアレンを検出した。 2)幼虫蜜腺分泌物の化学分析:ミヤマ、ツバメシジミ(ツバメ)、ヤマトシジミ(ヤマト)幼虫から蜜腺分泌物を採取し、LC-MSで糖の組成分析を行った。ツバメ・ヤマトと比較してミヤマの蜜腺分泌物はトレハロース量が相対的に高く、特徴的な成分としてマルトトリオースを含んでいた。アミノ酸分析も同時に行ったが、採取したサンプル量が極めて少なく、アミノ酸は検出できなかった。 3)生物試験1:体表炭化水素組成が異なるクロヤマアリ個体群(広島、山梨A、山梨B)のワーカーを用いてミヤマ幼虫に対する行動を調べたところ、山梨Aがすぐ随伴行動を示したのに対し、広島・山梨Bは幼虫への随伴行動が総じて低かった。これより、同一種のアリであっても幼虫に対する随伴行動・適合性は個体群ごとに大きく異なることがわかった。また、典型的な小型アリであるアミメアリはクロヤマアリにくらべてシジミチョウ幼虫に対する随伴行動は弱く、アリの種類によって幼虫との相互作用に違いが認められた。 4)生物試験2:ミヤマ、ツバメ、ベニシジミ(ベニ)幼虫に直鎖・分枝アルカンまたはアルケン、スクアレン標品0.1, 1, 10μgを塗布し、生得的な体表脂質組成を操作した幼虫に対するクロヤマアリの反応を調べた。直鎖・分枝アルカンに比べ、アルケン・スクアレンは塗布量が増加するにつれ幼虫を攻撃するアリの割合が増加した。幼虫にくらべて体表脂質が量的に少ない蛹に幼虫を模した直鎖アルカン混合物を塗布したが、クロヤマアリは攻撃を示さなかった。これより幼虫の生得的な体表脂質はアリの攻撃を惹起しないことを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「化学分析」3種のシジミチョウ幼虫・蛹の体表脂質組成については分析を完了した。伸縮突起分泌物の分析において、ミヤマシジミ幼虫の特徴的な成分としてスクアレンを見いだした。SPMEサンプルにおいてスクアレンは検出されなかったことから、本成分は伸縮突起から揮発するのではなく、分泌液および組織中に含まれると考えられる。蜜腺分泌物の化学分析は予定通り進んでいない。新規サンプリング法で蜜腺分泌物を採取したが、採取量は0.1 mg下限の電子天秤で測定できないほど微量であった。このため、分泌物の糖濃度に関する定量的な情報が得られていない。また、分泌物のアミノ酸分析を外部機関に委託したが、アミノ酸は検出できなかった。 「生物試験」体表脂質および伸縮突起の主要成分を用いた生物試験は順調に推移しており、各成分の量的試験は8割方完了した。一方、幼虫に対するクロヤマアリの随伴行動はアリの個体群毎に違いのあることが新たにわかった。よって、これまでの試験結果をアリの個体群毎に分割し、それぞれの個体群で試験回数を増やす必要が生じている。蜜腺分泌物の主要な糖成分については、クロヤマアリ広島個体群を用いて糖応答を調べる予備試験をほぼ完了した。 「電気生理学的試験」ミヤマシジミ体表脂質を使って予備検討を行ったが、再現性のある電気信号が得られず、実験プロトコルの確立に至っていない。供試した味覚感覚子のうち反応(電気信号)が記録されるものは15%以下であった。反応が観察された感覚子を数分のインターバルをおいて同じ試料で再度刺激すると、反応が消失したり、反応パターンが大きく変化したりするのが観察された。
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Strategy for Future Research Activity |
「化学分析」ミヤマ幼虫から伸縮突起分泌物のサンプリングを再度行い、幼虫1個体に含まれるスクアレン量を定量する。幼虫蜜腺分泌物の大量採取が非常に難しいため、アミノ酸分析は断念せざるをえない。一方、蜜腺分泌物の糖分析は可能であることから、現状のサンプリング方法で再度蜜腺分泌物を採取し、0.01 mg下限の電子天秤を新規購入して微量サンプルの重量を測定、LC-MS分析(外部委託)により糖濃度を決定する。 「生物試験」広島・山梨1のクロヤマアリ個体群を用いて、ミヤマ幼虫の体表脂質および伸縮突起成分に対する行動試験を実施し、2つの個体群間で反応性の違いを定量的に検証する。ヤマト・ベニ幼虫を用いた行動試験は、クロヤマアリ広島個体群を対象に反復試験を行い、ミヤマ幼虫を用いたときとアリの反応の違いを検証する。 クロヤマアリ広島個体群を使って、シジミ幼虫の蜜腺分泌物から同定した7種の糖に対するアリの摂食反応(選好性)を試験する。はじめに各糖に対するアリの濃度応答曲線を調べ、つぎにミヤマ幼虫に特徴的な糖成分(トレハロース・マルトトリオース)による他の5種の糖との協力作用の可能性を検証する。 「電気生理学的試験」巣仲間認識を行うクロヤマアリ味覚応答についてはすでに先行研究があるため、同巣のクロヤマアリと異種であるクロオオアリの体表炭化水素抽出物を調製し、これらに対するアリの味覚感覚子応答を調べる。先行研究と同じ結果が得られるよう実験条件を設定し、その上で、シジミチョウ幼虫抽出物に対する味覚応答を確認する。
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