2014 Fiscal Year Research-status Report
次世代シーケンシング技術を利用したアブラムシ社会の分子基盤および進化に関する研究
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25450494
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
沓掛 磨也子 独立行政法人産業技術総合研究所, 生物プロセス研究部門, 主任研究員 (90415703)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 社会性昆虫 / 兵隊アブラムシ / RNAseq |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、階級分化、社会行動、齢差分業といった興味深い現象を示すさまざまな社会性アブラムシを対象に、次世代シーケンサーを用いたRNAseq解析をおこない、アブラムシ類における社会機構の至近メカニズムを網羅的かつ包括的に探るとともに、進化起源の異なる兵隊間でのトランスクリプトームの比較から、兵隊がいくつもの系統で独立に複数回進化してきたアブラムシ社会性の進化を遺伝子レベルで解明することを目的とする。 今年度は、昨年度ライブラリー調整が間に合わなかったウラジロエゴノキアブラムシとジャムリッツエゴアブラムシの反復実験をおこない、昨年度の結果と合わせて、社会性アブラムシ4種(上記2種のほかに、ハクウンボクハナフシアブラムシ、ササコナフキツノアブラムシ)についてのデータ解析をおこなった。それぞれの種において兵隊での遺伝子発現量が有意に変化している遺伝子を抽出したところ、リパーゼを含む脂質代謝関連遺伝子やシトクロムP450といった遺伝子が4種に共通して発現亢進していることが明らかになった。また、ハクウンボクハナフシアブラムシの攻撃毒物質として既に報告があるカテプシンB遺伝子については、他3種の兵隊ではほとんど発現しておらず、これらの種では攻撃毒として機能していない可能性が示唆された。その一方で、ササコナフキツノアブラムシにおいてはカルパインという別のプロテアーゼが、またウラジロエゴノキアブラムシとジャムリッツエゴアブラムシにおいてはグリコシダーゼの一種が、いずれも兵隊でのみ大量発現していたことから、新規の攻撃毒タンパク質として機能している可能性が考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、予定していたすべてのシークエンスを完了し、データ解析に取り組み、以下の成果が得られた。 1.兵隊特異的な攻撃毒として報告されているカテプシンBプロテアーゼについては、ハクウンボクハナフシアブラムシの兵隊で特異的に発現していた一方で、それ以外の種ではまったく別の酵素遺伝子が兵隊で特異的に発現しており、これが攻撃毒として機能している可能性が示唆された。以上の結果は、社会性アブラムシにおける攻撃毒タンパク質の多様性と進化について重要な示唆を与える大きな進展である。 2. 社会性アブラムシ4種に共通して兵隊で発現亢進している遺伝子を探索し、リパーゼやP450など複数の遺伝子を同定した。これらは兵隊の階級分化や生物機能に関わる共通の遺伝子と考えられる。 これらの研究はいずれも申請書の計画通りに進められ、順調に成果が得られていると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
攻撃毒として機能している可能性が示唆されたカルパインやグリコシダーゼを中心に、詳細な遺伝子発現定量解析、組織発現解析、機能解析などをおこない、実際に毒という機能を持つかどうかを精査する。またその他の興味深い遺伝子についても、同様の解析をおこない、生物学的機能を推定する。さらにRNAseqの結果について、より詳細な検討をおこない、兵隊分化および生物機能に関わる遺伝子基盤やその進化について、包括的な理解を得ることをめざす。
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Causes of Carryover |
受託サービスによる特異的ペプチド抗体の作製を来年度に延期したため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度は、昨年度外注するはずだったペプチド抗体を作製するほか、その他の様々な分子生物学実験に必要な試薬類を購入する。その他、成果発表や野外採集に必要な旅費を支出する。
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