2014 Fiscal Year Research-status Report
金属イオンとの配位を利用した新規分析法の開発-親水性化合物の水環境中での動態解析
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25450505
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Research Institution | Toyama Institute of Health |
Principal Investigator |
健名 智子 富山県衛生研究所, 化学部, 副主幹研究員 (60416089)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小玉 修嗣 東海大学, 理学部, 教授 (70360807)
山本 敦 中部大学, 応用生物学部, 教授 (60360806)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 有機酸 / HPLC法 / 銅イオン / 食品分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度は移動相に銅イオンを添加し,銅イオンと配位した一価の有機酸を陰イオン交換モードで精度良く分離する方法を開発した。カルボキシル基に基づく220 nm以下での吸収しか持たない有機酸は,銅イオンと配位することにより吸収スペクトルが長波長側へシフト(240 nm)すると共に吸光係数が増加し,高精度な分析が可能になったと考えられた。 本年度は,昨年度開発した方法を,雨水中の一価の有機酸測定及び食品添加物であるプロピオン酸の測定に応用した。更に陰イオン交換モードでは測定できなかった,リンゴ酸,クエン酸等の二価及び三価のカルボン酸を逆相モードで分離分析する方法について検討した。通常,逆相カラムで有機酸を分離する場合には,イオン化を抑制させるためpH2.5程度の酸性移動相を用いる。5 mM硫酸(pH 2.3)中の1mM有機酸溶液に銅イオンを添加して吸収スペクトルの変化を調べたところ,銅イオンを過量に加えることにより,吸収極大が長波長側(240 nm)にシフトすることがわかった。このことから,移動相中の銅イオン添加濃度を1~15 mMと変化させて,有機酸の逆相モードでの分離・検出挙動を調べた。 銅イオン濃度の増加に伴い,クエン酸,リンゴ酸,酒石酸,マロン酸,乳酸は溶出が早まると共にピーク面積も著しく増大し,銅イオンの影響を大きく受けることがわかった。酢酸,コハク酸は銅イオン添加濃度を変化させても保持時間は一定であり,ピーク面積の著しい増加もみられなかった。一方,フマル酸及びマレイン酸は,銅イオン添加により保持時間は短くなったが,ピーク面積に変化はなかった。これらの結果から,銅イオンとの安定度定数が高い有機酸ほど添加銅イオン濃度の影響を大きく受けることが判明した。銅イオンを10 mMを添加した場合に最もよい分離およびS/N比が得られた。これらの結果を食品サンプル中の有機酸分析へ応用した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
有機酸のHPLC分析を行う場合,イオン交換モードにおいても,また逆相モードにおいても,移動相に銅イオンを加えると,有機酸が銅イオンと配位した形で分離されることにより,吸収スペクトルが高波長側へシフトすることがわかった。これは有機酸が,既存の分離モードに配位能をプラスした,新規な分離モードで分離されたことを示しており,今後,この方法を他の金属イオンに配位する性質をもつ親水性化合物に適用することができると思われるため。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は,金属イオンに配位する性質をもつ親水性化合物を,HPLC法の既存の分離モードに配位能をプラスした,新規な分離モードで分離分析する方法を開発し,環境中に流出する親水性微量有機物質の環境動態を解析することを目的としている。これまでの研究期間において,有機酸類を銅イオンと配位させ,陰イオン交換モードまたは逆相モードにてHPLC法により分離し,金属イオンと配位した有機酸類の吸収スペクトルが,長波長側へシフトし,また吸光係数が増加することにより,精度良く分析する方法を開発し,主に食品分析に応用してきた。 残り1年の研究期間中は,これまでの有機酸分析で得られた知識を活用し,親水性化合物であるヒドロキシ基を多数持つ糖類について,金属イオンを添加した移動相を用いたHPLCによる分析法について検討したいと考える。糖類は親水性が非常に高く,また特異的な吸収をほとんど持たないことから,これまでは親水性Hilicモードまたは配位子交換モードで分離,示唆屈折率検出器や蒸発型光散乱検出器で分析されてきた。しかしながら,これら検出器に特異性はなく,充分な感度が得られているとは言えない。糖類を金属錯体とし,様々な分離モードのカラムにおける分離挙動を調べ,UV検出器により分析する方法を検討する。 本研究課題において検討した低分子親水性化合物の分析法を,今後,医薬品類のうち金属イオンと容易に錯体を形成すると考えられる,カルボン酸構造を持つβ-ラクタム系のペニシリンやセファロスポリン,糖類と類似の構造を持つアミノグルコシド系のカナマイシンなどの分析法に展開していきたいと考える。
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