Outline of Annual Research Achievements |
細胞表面や細胞外マトリクスに存在する硫酸化糖鎖が, 受容体を介して細胞内にシグナルを入力し, 細胞機能の制御に働く場合がある. この機能は, 硫酸化糖鎖の量・糖鎖長・硫酸化構造によって調節されるため, 硫酸化糖鎖の合成異常は細胞機能に影響を与え, 疾患の原因となり得る. 硫酸化糖鎖の合成異常を起こした遺伝子欠損マウスを解析した結果, 炎症性疾患の病態が重篤に現れ, この現象がマクロファージの過剰な応答に起因する可能性が示唆された. 本研究では, 硫酸化糖鎖の変化が, Toll-like受容体を経てサイトカインの産生を起こすマクロファージの炎症シグナル経路に与える影響を検討し, これに関連する“疾患糖鎖”を糖鎖構造・生合成の面から明らかにすることを目的としている.平成26年度は, 内因性の Danger Signal として Toll-like 受容体に認識されるプロテオグリカンの一つ, ビグリカン上の糖鎖に注目した. 定常状態において, 野生型マウスの肝臓に存在するビグリカンは硫酸化糖鎖による修飾を受けていないが, 炎症刺激を与えるとビグリカン上で硫酸化糖鎖の合成が起き, 回復に伴い硫酸化糖鎖修飾が抑制された. 興味深いことに, 炎症を誘導した時, 一過的な EXTL2 の発現低下に伴いビグリカン上の硫酸化糖鎖が合成された. また, EXTL2 ノックアウトマウスのビグリカンは, 定常状態でも硫酸化糖鎖による修飾を受けていた. この結果は, EXTL2 が Danger Signal として働く硫酸化糖鎖の合成を下方に制御することを示している. また, 野生型マウスの解析結果から, 炎症反応の過程で, 自然免疫を活性化させる硫酸化糖鎖の一過的な合成と回復に伴う合成停止を指示しているのが EXTL2 である可能性が示唆された. 本年度の結果は, 炎症を基盤とした疾患の発症に関わる「疾患関連糖鎖」の生合成制御機構を解明することができる可能性を示している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
EXTL2 による制御を受ける硫酸化糖鎖をもつ候補プロテオグリカンを明らかにすることができた. また, この候補プロテオグリカン上には正常では硫酸化糖鎖が付加しておらず, 炎症を誘導すると EXTL2 の発現低下に伴い硫酸化糖鎖の合成が開始される. 予想通り, EXTL2 により炎症反応に関連する糖鎖の合成が制御されていることが示唆できた. また, 硫酸化糖鎖によって活性化される炎症反応を阻害する化合物をアッセイする簡易な実験系を確立することもできた.
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