2014 Fiscal Year Research-status Report
2つのプロスタノイド受容体情報伝達系活性化バランスによる結腸癌細胞制御機構の解明
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25460091
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
藤野 裕道 千葉大学, 薬学研究科(研究院), 准教授 (40401004)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | PGD2 / PGE2 / DP受容体 / EP2受容体 / 結腸癌 / 1000ゲノムプロジェクト / 受容体アミノ酸変異 / β-カテニン |
Outline of Annual Research Achievements |
五員環上のケトン基と水酸基のポジションが逆転した位置異性体であるプロスタグランジンD2(PGD2)とプロスタグランジンE2(PGE2)は、それぞれの受容体に交錯することが知られているが、その交錯の程度については不明な点が多い。PGE2は主にEP2およびEP4受容体サブタイプに作用し、結腸癌の増悪化に関与していると考えられている。しかしながら多くのヒト結腸癌細胞株においてEP2受容体の他に、PGD2の受容体であるDP受容体の発現も確認されている。両受容体系の相互作用、クロストークなどを明らかにする目的の一環として、EP2受容体のみならずDP受容体も発現しているLS174Tヒト結腸癌細胞株を用いた研究として、平成25年度に、1)PGD2刺激により発現が変動した癌化関連因子であるDAF/CD55や、ムチン13のmRNAなどは、PGE2刺激でも同様に変動する事を明らかとした。さらに、2)新規インドール化合物によるDP受容体アンタゴニストの探索も行った結果AWT-489が見いだされ、LS174T細胞においてDP受容体刺激によるDAF/CD55発現を、既存のアンタゴニストであるBWA868Cよりも有意に抑制する結果を得た(Arch Biochem Biophys (2014) 541: 21)。平成26年度においては、受容体のリガンドによる反応性の違いに焦点を当て研究を行った。すなわちDP受容体、あるいはEP2受容体にPGD2が作用した場合とPGE2が作用した場合の差異の解明を試みた。その結果、3)DP受容体をPGE2で刺激した場合およびEP2受容体をPGD2で刺激した場合、それぞれの受容体にクロスさせたリガンドで刺激した場合、cAMP産生系でのEC50とβ―カテニン活性化系でのEC50が異なる事が明らかとなった。また、世界各地の1092人のDP受容体とEP2受容体のcDNA配列変異を網羅的に調べた結果、4)DP受容体に見いだされるアミノ酸変異と比べてEP2受容体には変異したアミノ酸が有意に少ない事が明らかとなった(FEBS Lett. (2015) 589: 766)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度においては、位置異性体として異なるリガンド、PGD2およびPGE2刺激による細胞応答の違いの解明に着手した。これまでの我々の研究成果から、EP2受容体活性化によるcAMP産生がβ―カテニン系活性化を引き起こす、ほぼリニアな系としての可能性を報告している。しかしながら今回の結果において、DP受容体をPGE2で刺激した場合およびEP2受容体をPGD2で刺激した場合、cAMP産生系でのEC50とβ―カテニン活性化系でのEC50が異なる事が明らかとなった。すなわちcAMP系とβ-カテニン系は必ずしもリニアな系ではなく、それぞれ独立した情報伝達系である可能性が示された。これはDP受容体に対してはPGE2が、EP2受容体に対してはPGD2が、それぞれバイアスド・リガンドとして作用している可能性を示唆しているため、受容体活性化メカニズムとしての新たな機構である段階的活性化を示唆出来た事が大きな成果であると考えられる。またEP2受容体とDP受容体は、プロスタノイド受容体ファミリーの中で最も相同性の高い近縁な受容体であり、ヒトでは同じ染色体上にタンデムに並んでいる事から遺伝子重複により分離したと考えられている。そこで1000ゲノムプロジェクトデータベースを用いて世界各地の1092人のDP受容体とEP2受容体のcDNA配列上の変異を網羅的に調べた結果、DP受容体に見いだされるアミノ酸変異と比べてEP2受容体では変異したアミノ酸が有意に少ない事が明らかとなった(FEBS Lett. (2015) 589: 766)。この結果から各受容体の分離後に、それぞれの受容体にかかる進化圧が異なる可能性が考えられた。したがってDP受容体系はEP2受容体系とは異なる、新たな機能を獲得しつつある過程にあるのではないかと推測することが出来た。この結果は、これら受容体の生理的な機能・役割を明らかにする上で非常に重要であり、進化を踏まえた側面からの考察を提示出来た点において大きな成果であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度ではHEK293細胞にEP2あるいはDP受容体を発現させた系を用いて、異なるリガンド刺激によるcAMP産生などのセカンドメッセンジャーを含む細胞内情報伝達系への影響などを解析し、PGD2とPGE2がそれぞれEP2受容体およびDP受容体に対して、バイアスド・リガンドとして作用している可能性を示唆出来た。平成27年度では、そのメカニズムの詳細、すなわち、バイアスド・リガンドとして機能するためのメカニズムの解明を目指したい。リガンドと受容体の組み合わせに由来する情報伝達系の差異は、そのリガンドが結合した時の受容体のコンフォメーションに端を発している可能性が高い。そのため、受容体/リガンドの安定性や結合状態などをコンピューターシミュレーションなど用いて解析したい。また、バイアスド・リガンドにより活性化した受容体が引き起こす情報伝達系の具体的な差異や、その生理的役割・意義や詳細の解明も、同時に進めて行きたいと考えている。それらの結果を踏まえて、実際の癌細胞における2つのプロスタノイド/受容体系の交錯メカニズム、およびその役割を類推し、ポリファーマコロジーとしてのリガンド/受容体系の病態生理学的な側面からの理解に繋げたいと考えている。
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Research Products
(14 results)