2014 Fiscal Year Research-status Report
鼻中隔など顔面正中部骨格の形成過程で働く分子群の解析
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25460254
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
和田 直之 東京理科大学, 理工学部, 准教授 (50267449)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 頭顔面発生 / 鼻中隔 / 糖鎖 / 軟骨分化 |
Outline of Annual Research Achievements |
鼻中隔など顔面正中部を構成する正中部骨格は,ラトケ嚢の左右に出来る一対の梁軟骨とその前方が融合して出来る中隔軟骨を原基とする。本研究は,中隔軟骨原基で強く発現するPNAレクチン結合糖鎖分子(PNA-BM)に注目している。本年度は,(1)PNA-BMの分子実体の解析を進める,(2)PNA-BMを発現する軟骨の初期段階での発現や細胞形態との関連を調べる,2つの実験を行った。 ①PNA-BMの分子実体の解明:PNA-BMの分子実体を明らかにするため,孵卵5日のニワトリ胚頭蓋底形成領域を集め,可溶性分画を除いた試料(膜タンパク質および細胞間物質と想定)を用いてレクチンブロットを行った。その結果,分子量約200kDと240kDの位置にバンドが検出された。頭蓋底形成領域となる組織片が小さいため試料の精製が難しく,アミノ酸配列の解析には至っていない。一方,PNA-BMが軟骨ECMのグリコサミノグリカン(GAG)鎖である可能性を検証する目的で,GAGのコアタンパク質への結合を阻害するp-nitrophenyl-beta- d-xyloside (PNPX)処理を行い,PNA-BMの発現変動を調べた。その結果,PNPX処理によりコンドロイチン硫酸鎖の蓄積低下に伴う軟骨の低形成が観察されたが,低形成の軟骨においてもPNA-BMの発現は確認されたことから,PNA-BMは軟骨ECMのGAGではないと予想された。 ②PNA-BMの発現と軟骨細胞の形態・極性:PNA-BMの発現の有無が細胞の性質変化をもたらして軟骨初期形成に影響する可能性を考え,PNA-BM発現と細胞形態,極性,細胞増殖と軟骨分化の関連を調べた。その結果,PNA-BM陽性軟骨細胞と陰性軟骨細胞では細胞の凝集状態や細胞内アクチンの分布が異なることが観察された。今後PNA-BM発現と細胞形態の関連を考察する必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
申請時に計画していた実験は,①PNA-BMの分子実体の解明,②頭部軟骨形成過程でのPNA-BMの発現調節に関わる組織間相互作用,③PNA-BMの発現を指標にした鼻中隔形成を担う細胞の理解,の3つである。研究実績概要に示した(1)は①に,(2)は②,③に対応する。 このうち①については着実に進展している。前年度問題となったPNA-BMを含む糖タンパク質画分(膜タンパク質および細胞間物質を予想)を抽出する過程を見直した結果,レクチンブロット法により二つのバンドが確認できた。ただし,試料を得るための組織片が小さいため,ここからアミノ酸配列決定に十分な量のPNA-BMを得るのが今後の課題である。なお,申請時および前年度の報告でレクチンアフィニティーカラムを用いたPNA-BMの濃縮の可能性について言及したが,数回試みた結果,目的とする分画にそれ以降の操作・解析に十分なタンパク質が得られないことがわかり,これについては断念することにした。 ②,③については,PNA-BM陽性軟骨組織と陰性軟骨組織における,個々の細胞の形態や増殖能に注目することで,それぞれの軟骨の状態変化を理解することが出来たと考えている。細胞形態変化が主であるが,形態の変化がPNA-BMの発現制御と関連するのか,あるいはPNA-BMの発現が細胞形態変化をもたらすのか,いずれであるかは明らかではない。また前年度までに示した,細胞間シグナル分子の作用により細胞形態の変化が起こる可能性もある。現段階でPNA-BMが発現する意義やその機能も不明であるので,今後は発現制御と機能解析の両方の視点から解析を進める必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
以下のように進める計画である ①PNA-BMの分子実体の解明:本実験の問題としては,上述のように組織中に含まれるPNA-BMの割合が少ないなどの点が挙げられる。これらの解決には,抽出に用いる組織片の量を増やすことである程度解消できると予想している。PNA-BMの大体の分子量が確認できたので,以降はこの分子量に焦点を絞り,より低分子量のタンパク質は除去したうえで,質量分析によるアミノ酸配列解析が可能になるように進めることを考えている。 ②PNA-BMの発現調節に関わる組織間相互作用の解析,およびPNA-BMの発現を指標にした細胞変化: PNA-BMの発現の不均一性と,頭蓋底形成領域の細胞形態や軟骨分化状態の不均一性の関連を調べる。形態の変化がPNA-BMの発現状態に影響する可能性について,細胞骨格の機能阻害試薬などを用いて細胞形態を操作したときのPNA-BM発現を調べる。併せて,細胞の密度とPNA-BMの発現変動についても検討を行う。一方,PNA-BMの発現が細胞形態変化をもたらす可能性については,①の分子実体の解明が優先される。また,これとは別に前年度までの解析で,Shhなど細胞間シグナル分子が頭蓋底原基軟骨の形成に役割を果たしていることを示したが,ここで化制御される軟骨のPNA-BM発現状態については確定していない。そこで,ShhシグナルとPNA-BM発現変動について,またShhシグナルと細胞形態変化の関連を,器官培養および細胞培養系を併用して確認する。
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Causes of Carryover |
旅費については学内別経費より支払いが可能だったこと,PNA-BMのアミノ酸配列決定のための受託解析として確保していた経費については実験の進行の関係で使用しなかった。これらの事情で支払総額は当初計画よりも少額となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度は,アミノ酸配列決定を行う計画であること,また研究をまとめるにあたっての消耗品費および論文準備のための経費などでの支払いが増えることが予想されるので,繰越額はこれらの費目にあてる計画である。
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Research Products
(2 results)