2015 Fiscal Year Research-status Report
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25460277
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Research Institution | Koshien University |
Principal Investigator |
後藤 隆洋 甲子園大学, 栄養学部, 教授 (20135693)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
柴田 昌宏 鹿児島大学, 医学部, 教授 (10343253)
小池 正人 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (80347210)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 冬虫夏草 / Dahlラット / 寿命 / 高血圧 / 神経細胞 / 心筋細胞 / ミトコンドリア関連タンパク質 / オートファジー関連タンパク質 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は古くから薬効能が示唆されている冬虫夏草に注目し、ラットでの寿命延長効果を細胞レベルで解析した。冬虫夏草であるCordyceps militaris(CM)の抗腫瘍、抗肥満、免疫力向上作用などの効果が示唆されているが、寿命延長効果についてはショウジョウバエでしか報告がない。 食塩(8%)投与で寿命を短くできる食塩感受性Dahlラット(平均寿命約2.9ヶ月)を用いて、CM投与により寿命に変化があるか解析した。コントロールラットに比較してCM(3%濃度で食餌に添加)投与ラットで有意に寿命が延長することがわかった(p = 0.0001) 。このラットの死因は、私たちの今回の観察から高血圧による脳出血による後遺症であると考えている。CMは脳出血を抑制することなしに、脳出血後の寿命を延長させることが推測された。 CMの寿命延長効果がどのようなメカニズムで遂行されるか、脳の神経細胞に加えて高血圧の影響を受けやすい心筋細胞や腎臓、肝臓などの細胞を、ミトコンドリアとオートファジーの機能さらにそれらの関連タンパク質(ミトコンドリアATP合成酵素βサブユニット、オートファジー関連タンパク質のLC3、カテプシンD、SIRT3、リン酸化AMPK)の発現変化に注目し、形態学的、免疫組織化学的及び生化学的に解析した。その結果、CMは心筋細胞の変性的変化を抑制し、ミトコンドリアの変性も抑制し、上記の細胞生存関連タンパク質の発現を促進した。CMは腎臓や肝臓に対しても同様の変性抑制効果が示された。しかし、CMは脳の神経細胞の変性を抑制するが、神経細胞に発現する上記細胞生存関連タンパク質の発現を低下させることが示された。 従って、CMは心臓その他の器官の機能改善に関与し、それが脳の神経細胞のエネルギー消費を低下させる環境にし、脳出血後の神経細胞の活動を低下させることが個体の寿命延長につながることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究において、冬虫夏草(Cordyceps militaris(CM))の寿命延長効果が初めて哺乳類(ラット)で示された。実験期間に制限があるため、正常のラットではなく、高血圧により脳出血を起こすため寿命が短くなる食塩感受性高血圧ラット(Dahlラット)を使用したため、正常動物での寿命延長は示されなかったが、この結果はCMに病気ではなく正常の動物でも寿命延長効果があることが強く示唆された。さらに興味深いことに脳出血はCMの投与に無関係に起き、すなわちCMは食塩による血圧の上昇を抑制しないが、脳卒中後寿命の延長に関与することがわかった。このことは神経細胞が障害された後、CMが神経細胞に対して保護効果があることが指摘された。他の器官、例えば心臓や腎臓などの高血圧障害を受けやすい器官の細胞もCM投与は細胞、組織レベルで構造とおそらくその機能も障害が緩和し正常化する傾向あることがわかった。 しかし、ミトコンドリアやオートファジーに関連した細胞生存タンパク質の発現パターンは、脳とそれ以外の器官の細胞・組織で逆の関係にあった。すなわち、これらのタンパク質は脳では発現が低下し、心臓など他の臓器では逆に増加した。このことはCMが脳以外の器官では細胞機能の活性化に関与しているが、脳では神経細胞の不活性化に関与していることを意味する。神経細胞の機能活性化が抑制されることが神経細胞の保護効果と関係し、脳卒中後の脳機能を維持することにつながるのではないかと今までとは異なる発想をしている。 上記の新規のデータが得られたため、このことが今後CMあるいはより効果が期待され、メカニズムが解析しやすいCMの主要な生理活性物質であるコルジセピンの神経細胞への直接的影響を神経系の培養細胞で解析する動機になり、これらの化学物質の細胞への作用機序の解明を目指すことになった。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度の私たちのCMのデータから、神経細胞へのCMの予想外の影響(CMが他の細胞と異なり神経細胞には不活性的に作用している可能性があるので)について極めて興味があるため、今後CMさらにCMのみに特異的に含有される生理活性物質のアデノシン(DNAやRNAの構成成分)類似の構造であるコルジセピン(Cordycepin、分子量:251)の神経細胞への直接効果を神経系の培養細胞で検討し、これらの物質の神経細胞への保護効果について解析する。 神経系の細胞株であるPC12細胞(ラット副腎髄質褐色細胞腫)、Neuro2a細胞(マウス神経芽細胞腫)及びラット胎児脳組織から作製する初代培養の神経細胞を用いる。まずCM及びコルジセピンはそれぞれ濃度依存性にどのように細胞に影響するか検討する。CMの場合はエキスを作製(日本シルクバイオ研究所提供)し、コルジセピンは購入し、細胞株の場合はそのままの状態すなわち未分化型(腫瘍性の性質が強いもの)とNGFやレチノイン酸で分化型(神経性の性質が強いもの)にしたものに投与し、両細胞型で突起伸展能、細胞生存・細胞死への影響を解析する。 両細胞型で有意な性質の差があれば、どのような分子メカニズムでこの差が生じ、これらの化学物質のそれぞれの細胞への作用機序を明らかにする。さらにPC12細胞とNeuro2a細胞での違いがあれば、その点についても検討する。目下、注目しているメカニズムはミトコンドリアとオートファジー関連のカスケード系である。さらにCMエキスあるいはコルジセピンが分化型細胞と初代培養神経細胞で作用機構が同じかどうかも検討する。これにより、これらの物質の腫瘍細胞や神経細胞への影響をより明確にし、CMあるいはCM由来の植物化学物質(ファイトケミカル)がヒトの生活習慣病あるいは老化関連疾患の予防・遅延に貢献し、健康寿命延長の可能性について検討できる。
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Causes of Carryover |
ラットでの冬虫夏草の作用機序解明の実験で論文作成が可能なデータが出た。これにより冬虫夏草あるいはその構成成分のコルジセピンの作用機序を分子レベルで解明するため培養細胞での実験を最終年度で集中的に実施すること、さらに国内外の学会発表さらに論文作成の費用が必要となった。そのため前年度(平成27年度)の使用額を抑えた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
培養細胞(PC12細胞とNeuro2a細胞)、コルジセピン、培養関連試薬及び抗体とその関連試薬、光顕、レーザー及び電子顕微鏡標本の作製試薬を購入し、細胞を用いて分子レベルで冬虫夏草(日本シルクバイオ研究所に依頼)とコルジセピンの効果を解明する。さらに国内(7月)及び米国(11月)での神経科学学会で発表を予定しているため旅費が必要である。また論文を作成後、論文投稿に際して英文チェックや投稿のための費用も必要である。
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Research Products
(3 results)