2013 Fiscal Year Research-status Report
ストレス回避学習の分子メカニズム:アセチルコリンが強化する海馬シナプスの可塑性
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25460314
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
美津島 大 山口大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (70264603)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | AMPA受容体 / GABAA受容体 / 学習 / アセチルコリン / シナプス可塑性 / エピソード記憶 |
Research Abstract |
ラットを使い特定のエピソードを学習させる回避学習を行うと、AMPA受容体がCA1シナプスに移行して学習が成立する(Mitsushima ら, PNAS 2011)。本研究では、その引き金分子として海馬アセチルコリンに着目した。学習前後の海馬CA1領域内のアセチルコリン分泌量は学習中から増加し、学習後にも高く維持された。さらに、スライスパッチクランプ法を用い、個々の海馬CA1ニューロンについてシナプス機能を解析した。すると、回避学習はAMPA受容体を介する興奮性シナプスの可塑性を高めるだけでなく、GABAA受容体を介した抑制性シナプスの可塑性を高める結果、個々のCA1ニューロンが複雑かつ多様なシナプス入力を保持することを明らかにした。興奮と抑制、どちらのシナプス変化も学習成立に必要であり、アセチルコリン受容体の一種である「ムスカリン性M1受容体」を阻害すると興奮性シナプスの可塑性が阻害され、回避学習ができなくなった。一方、「ニコチン性α7受容体」を阻害すると抑制性シナプスの可塑性が阻害され、回避学習ができなくなった。本研究から、興奮性シナプスと抑制性シナプスの多様な可塑性により記憶情報が符号化され、エピソード記憶が成立すると考えられた(Mitsushima ら, Nature Commun, 2013)。 興奮と抑制、両方向のシナプス可塑性が強化されるため、学習後は興奮と抑制を繰り返す発火パターンが見られるとの仮説を立てた。エピソード学習前後のCA1ニューロン発火活動を記録すると、学習前には散発的な発火活動が見られたが、学習中~学習直後に0.6~1.2秒間継続する50~100Hzの高頻度発火が確認された。さらにシナプス可塑性が顕著になる学習十数分後には、リップル様の短い高頻度発火(0.05~0.1秒)の挿入が始まり、仮説通り興奮と抑制を繰り返す特徴的な発火活動が維持された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
回避学習の際に海馬CA1ニューロンで、興奮性と抑制性のシナプス可塑性が高まった。ただ、ニューロン毎にシナプス可塑性の度合いが異なるため、学習後に個々のニューロンが多様なシナプス入力特性を保持することが判明した。この学習依存的シナプス可塑性は、アセチルコリンをトリガーとし、ムスカリン性M1受容体を介して興奮性シナプスの可塑性が高まり、ニコチン性α7受容体を介して抑制性シナプスの可塑性が高まることも判った(Nature Commun, 2013)。 学習によって興奮性と抑制性、両方向のシナプス可塑性が強化されることが判明した為、興奮と抑制を繰り返す特徴的な発火パターンが成立するのではないかと予想した。そこで自由行動動物を用いてCA1ニューロン発火活動を記録した。十分に慣らしたホームケージ内で学習前後のCA1ニューロン発火活動を記録すると、不規則で散発的な、比較的低頻度の発火活動が見られた。次にホームケージ内で特定のエピソードを学習させると、学習中か学習直後に0.6~1.2秒間継続する50~100Hzの高頻度発火活動が発生した。その後、不規則で散発的な発火活動が続くが、十数分後には発火パターンが変化して、不規則な低頻度発火活動の間に約0.05~0.1秒間の短期的な高頻度発火(リップル波)が挿入されはじめた。左右のCA1ニューロンで同時計測すると、左右同期的に見られ、脳波解析と同時に行うとθ波活動の頂点位相(180°)とほぼ一致することも判明した。
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Strategy for Future Research Activity |
解析に先行して実験を終了させるため、大容量データを扱うPCの更新と、海馬内記録電極の購入に予算を充当する。実験には成熟した雄性ラットを用い、異なるエピソードを学習させる。スライスパッチクランプ法では学習前と学習後のシナプス可塑性に及ぼす影響を検討し、異なるエピソード学習で、興奮性シナプスと抑制性シナプスの可塑性にどの様な違いが見られるのか、多群間での比較検討も行う。 自発発火活動の記録では、海馬CA1の直上部に記録電極を植え込む。実験当日、海馬CA1の錐体細胞層に電極を刺入して、自由行動状態でスパイク活動の記録を開始する。ホームケージ内で学習前から記録を開始し、学習中・学習後に至る連続的な自発発火活動を記録して、海馬CA1ニューロンにおける学習成立過程の動的変化をはじめて明らかにする。さらに異なるエピソード学習を体験させ、学習内容の違いが自発発火活動に及ぼす影響も明らかにする。 異なるエピソード学習が、興奮性シナプスと抑制性シナプスにもたらす影響について、パッチクランプデータの解析を進める。miniature EPSCとminiature IPSCの解析で、個々のCA1ニューロン毎に興奮と抑制のシナプス入力強度を解析できるが、興奮性シナプスと抑制性シナプスの多様化も指標に解析を進める。個別のニューロンにおける興奮/抑制(E/I)バランス解析も行い、学習内容の違いがシナプス可塑性に及ぼす影響についても網羅的に解析する。 また、自由行動動物から得られたスパイクデータを基に、異なるエピソード学習が海馬自発発火活動に及ぼす影響も解析する。学習後、抑制のフェーズでは明確に発火活動が低下する一方、突発的にリップル様の短い高頻度発火の挿入が頻発した。学習後には多様な発火パターンを示すリップル様の短い高頻度発火が左右同期的に見られる為、リップル様波形の多様化と左右同期化についても解析を進める。
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