2013 Fiscal Year Research-status Report
ゲノム編集を施したヒト気道上皮細胞株を基盤とするKRASシグナル経路の解析
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25460395
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Aichi Medical University |
Principal Investigator |
シバスンダラン カルナン 愛知医科大学, 医学部, 助教 (30557096)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小西 裕之 愛知医科大学, 医学部, 教授 (20344335)
細川 好孝 愛知医科大学, 医学部, 教授 (60229193)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | KRAS / 気道上皮 / 肺癌 / ゲノム編集 |
Research Abstract |
KRAS癌遺伝子は肺癌、膵癌、大腸癌などの癌で高頻度に変異を呈する。しかし、KRAS変異に伴う癌発生・進展の分子機構の全容は未だ解明されておらず、KRAS変異癌に対する有効な治療薬は乏しい。本研究では、肺癌発生の初期段階におけるKRAS変異の役割を詳細に解析することを目標とする。また、KRAS変異癌の治療標的分子を同定し、将来的には新規癌治療薬の開発に道を開くことを目指す。 本研究の開始にあたり、厳密で正確なアッセイを可能にする実験系を樹立するため、まずアデノ随伴ウイルスベクターを用いて非癌ヒト気道上皮細胞株NuLi-1のゲノム編集を行い、野生型KRASアレル2本中1本を癌原性KRASG12Vアレルに置換(変異ノックイン)した。次に、樹立したKRAS変異クローンと対照クローンの表現型を様々なアッセイによって比較検討した。その結果、KRAS変異クローンの細胞形態が上皮細胞の特徴である敷石状の外観から疎な紡錘形細胞様へ変化することを見出した。また、同クローンは、ウェスタンブロット解析においてKRAS下流で増殖シグナルを伝達するMEK-ERK経路の活性亢進を示し、軟寒天培地培養では足場非依存性コロニーを形成した。これらのことから、本研究で用いた非癌ヒト気道上皮細胞株NuLi-1は、野生型KRASアレル2本中1本の癌原性変異により癌形質の少なくとも一部を獲得することが示唆された。 一方、意外なことに、増殖因子欠乏条件での単層培養において、KRAS変異ノックインによる増殖速度の低下が見られた。従来、マウスモデルなどでは、増殖シグナルの活性化がKRAS変異に伴う発癌機構のひとつであるとされてきた。しかし、我々のヒト気道上皮細胞モデルを用いた実験からは、KRAS変異による増殖速度の変化は細胞癌化において副次的である可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、研究開始当初に樹立したヒト気道上皮由来KRAS変異クローンとその対照クローンの特性を様々なアッセイによって比較し、肺癌発生におけるKRAS変異の役割を厳密に解析することを目指している。本年度は、KRAS下流シグナル伝達経路の複数の構成因子について発現量およびリン酸化をウェスタンブロットによって解析した。また、様々な培養条件において各細胞クローンの増殖速度やコロニー形成能を検討した。その結果、前述したように、KRAS変異クローンにおけるMEK-ERKシグナル経路の恒常的な過剰リン酸化や、同クローンの単層培養での増殖速度低下、半固形培地でのコロニー形成能の獲得が見出された。 しかしながら、これらの実験結果におけるKRAS変異クローンと対照クローンとの違いはわずかであり、確実に検出することは困難であった。その一因として、シグナル経路上でKRAS上流に位置するレセプター型リン酸化酵素EGFRからの増殖シグナルの伝達が影響していると考えられた。そこで、両クローンの表現型の違いを明示するため、培地に加えるEGF濃度の調節など実験条件の最適化を行ったが、この試行錯誤に当初の予想よりも長期間を必要とした。 当初の計画では、本年度は上記の実験に加え、KRASシグナル経路構成因子の特異的阻害剤の存在下における各細胞クローンの増殖態度の検討を行う予定であった。また、KRAS変異クローンの特性をin vivoで解析するため、各クローンを免疫不全マウスに接種し、移植腫瘍の増殖態度を解析する予定であった。しかし、上述のようにウェスタンブロットおよび細胞増殖アッセイの条件最適化に予想以上の期間を必要としたため、これらの研究項目は本年度中に遂行することはできなかった。よって現在までの本研究課題の達成度はやや遅れているものと判断された。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度実施できなかった各実験項目は平成26年度に遂行する方針とする。すなわち、各細胞クローンのKRAS上流・下流の複数のシグナル伝達経路を特異的阻害剤により抑制し、それによる細胞増殖抑制効果の検討を行う。具体的には、EGFレセプター阻害剤ゲフィチニブ、MEK阻害剤PD98059、PI3キナーゼ阻害剤LY294002、mTOR阻害剤ラパマイシンなどを使用し、各クローンの単層培養での増殖速度と半固形培地での足場非依存性コロニー形成能の変化を検討する。また、免疫不全マウスに各細胞クローンを皮下移植し、局所での腫瘍形成や遠隔転移の形成を観察することにより、KRAS変異クローンの形質転換の程度をin vivoで検討する予定である。 一方、当初の予定に従い、遺伝子発現解析に基づくKRAS変異癌の新規治療標的分子の探索も行う。まず、KRAS変異クローンと対照クローンの遺伝子発現プロファイルをマイクロアレイ解析により比較し、KRAS遺伝子1アレルの癌原性変異によって発現異常(特に発現亢進)をきたす遺伝子群を同定する。マイクロアレイ実験およびデータ測定には、Agilent Technologies社製のオリゴDNAマイクロアレイおよびFeature Extractionソフトウェアを使用する。次に、得られた遺伝子群についてGeneSpringソフトウェアによるパスウェイ解析等を行い、変異KRASシグナル媒介分子の候補を数個に絞り込む。最後に、選定した遺伝子の発現をRNA干渉法によって抑制し、低血清培地や軟寒天培地での増殖能など癌細胞としての特性に対する影響を解析する。これにより、変異KRASシグナルの重要な媒介分子の同定を試みる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記の通り、KRAS下流シグナル経路阻害実験と免疫不全マウスへの接種による各細胞クローンの形質転換の評価は、当初、本年度中に実施する予定であり、これらの実験の必要経費は本年度予算として計上していた。しかし、KRAS下流シグナル経路のリン酸化解析や細胞増殖速度・足場非依存性コロニー形成能の解析を先に行ったところ、KRAS遺伝子1アレルの変異による表現型の変化が当初の予想以上に小さく、両者の表現型の違いを明確に検出することができなかった。そのため、培地中のEGF濃度を調節し、KRAS変異クローンと対照クローンをそれぞれ3クローンずつ解析・比較検討するなど、比較的長期間にわたり実験条件の最適化を行う必要があった。その結果、KRAS下流シグナル経路阻害実験と動物実験は、当初の予定を変更して平成26年度に行うことになり、これらの実験の必要経費は次年度使用額として平成26年度へ移行することとなった。 平成26年度は、KRAS変異クローンと対照クローンのペアに対するKRAS上流・下流シグナル伝達経路の阻害実験を行う予定である。また、免疫不全マウスの皮下に細胞クローンを接種し、局所腫瘍と遠隔転移巣の形成を観察する実験も予定している。詳細は「今後の推進方策」に記した通りである。これらの実験を行うにはKRASシグナル経路上の数種類の分子の標的阻害剤ならびに免疫不全マウスを購入する必要がある。そのため、実験全体として比較的多くの経費を要すると考えられるが、本年度予算から平成26年度へ移行した次年度使用額を利用して対処する予定である。 一方、平成26年度には、当初からの予定通りKRAS変異クローンと対照クローンの遺伝子発現解析に基づく変異KRAS下流の重要なシグナル媒介因子の探索も行う。この解析は、以前から平成26年度分として計上されていた予算を用いて実施する。
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Research Products
(7 results)
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[Journal Article] Single copies of mutant KRAS and mutant PIK3CA cooperate in immortalized human epithelial cells to induce tumor formation.2013
Author(s)
Wang GM, Wong HY, Konishi H, Blair BG, Abukhdeir AM, Gustin JP, Rosen DM, Denmeade S, Rasheed Z, Matsui W, Garay JP, Mohseni M, Higgins MJ, Cidado J, Jelovac D, Croessmann S, Cochran R, Karnan S, Konishi Y, Ota A, Hosokawa Y, Argani P, Lauring J, and Park BH.
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Journal Title
Cancer Res
Volume: 73
Pages: 3248-3261
DOI
Peer Reviewed
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