2014 Fiscal Year Research-status Report
肝細胞癌で発現するp63の機能:DNA損傷応答およびウイルス発癌との関連
Project/Area Number |
25460475
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
加藤 伊陽子 山梨大学, 総合研究部, 准教授 (20333297)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | p63 / 肝癌 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者らは肝癌の細胞株がp63のTA型およびΔN型を発現していることを明らかにした(25年度の成果)。肝癌細胞におけるp63の発現と、腫瘍細胞の性質の関連、およびウイルス発癌との関連を調べるために研究を実施した。C型肝炎ウイルス(HCV)のコアタンパク質(HCV-C)がWnt/β-カテニンのシグナル伝達系を活性化する報告がある。そこで、肝細胞癌におけるこのシグナル伝達系に関するp63およびウイルスタンパク質の関連を調べた。 1.p63とGSK-3βのリン酸化およびβ-カテニン核移行の関連: TA-p63とΔN-p63を発現する肝癌細胞株でsiRNA法によりp63をノックダウンし、細胞質と核画分でタンパク質を解析した。p63は核内でGSK-3の脱リン酸化酵素と会合していたが、p63はGSK-3βのリン酸化およびβ-カテニン核移行に影響しなかった。 2.核抽出液でのp63とTCF4および関連因子の分子会合: Myc-TCF4、Flag-β-カテニン、p63(アイソフォームΔN-p63αなどを強制発現させ、抗Myc抗体、抗Flag抗体で免疫沈降を行った結果、ΔN-p63はTCF4と結合し、β-カテニンのアンタゴニストTLEの結合を促進することが示唆された。 3.クロマチン標的遺伝子でのβ-カテニン/TCF複合体: p63抗体、TCF4抗体、β-カテニン抗体、対照抗体を用いてクロマチン免疫沈澱(ChIP)を行った。精製したDNA断片をリアルタイムPCR法により定量・分析したところ、p63はDNA/β-カテニン/TCF複合体に含まれ、β-カテニンの結合または機能を抑制すると考えられた。 4.HCV-Cによる遺伝子発現制御: HCV-Cはp63の標的遺伝子発現には影響しないが、限られた細胞株ではWnt標的遺伝子発現を促進する結果が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.肝細胞癌においてp63、Wnt/β-カテニンシグナル伝達、ウイルス因子の3者の関連が浮上し、研究の方向性を明確にすることができた。p53の変異に次いでWntシグナル分子(β-カテニン)の遺伝子(CTNNB1)変異が肝癌発症の重要な過程であることが報告されており、本研究の目的に沿った妥当な展開である。 2.当初はクロマチン免疫沈澱(ChIP)の解析法としてChIPシークエンスを予定していたが、方法を定量PCR(qPCR)に変更した。その理由はp63が直接に作用する、いわゆるp63の標的遺伝子は多くあり、シークエンス配列を行うとそれらが優勢に表れるため、本研究で明らかにしつつあるような間接的制御にかかわるクロマチン複合体形成を明らかにするには現時点では技術的に難しいと考えられた。p63の強制発現やノックダウンと遺伝子発現プロファイル解析の結果を総合すれば、この複合体形成がクロマチン上の数百塩基対の領域に予測できることから、多数の候補領域にプライマーを設計しリアルタイムPCRを用いて定量する方法(qPCR法)を実施し、一定の成果が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
1.今後はHCV-Cを始めとするウイルスタンパク質およびp63によってβ-カテニンがどのように制御を受けるかについて解析する研究として発展させる。肝癌細胞株においてp53およびCTNNB1の変異の有無、p63発現・非発現、Wnt標的遺伝子の活性化、などの性質を明らかにしたうえで、ウイルスタンパク質がβ-カテニンの核移行と転写活性化複合体形成にどのように影響するかを検討する。 2.Huh7を始めとする肝癌細胞でゲノム編集法(CRISPR/Cas9)によりp63のアイソフォーム特異的なノックアウトを試み、TA型とΔ型がそれぞれ失われた細胞を樹立し、癌細胞の増殖や浸潤能に及ぼす影響を明らかにする。
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