2013 Fiscal Year Research-status Report
異環境に棲息する寄生蠕虫ミトコンドリア呼吸鎖のプロテオーム解析
Project/Area Number |
25460519
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Juntendo University |
Principal Investigator |
高宮 信三郎 順天堂大学, 医学部, 准教授 (90138206)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤村 務 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (70245778)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 寄生蠕虫 / 低酸素適応 / 呼吸鎖 / 肺吸虫 / マンソン裂頭条虫 |
Research Abstract |
本年度の実施計画として以下の三項目を掲げた。いずれも概ね予定どうり進捗した。 1) 肺吸虫体壁切片の活性染色によるin situ解析 2) 肺吸虫Mitの密度勾配遠心分画法による分離解析 3) マンソン裂頭条虫体壁切片の活性染色によるin situ解析 1)については、好気的呼吸鎖のマーカー酵素であるシトクロムオキシダーゼ(CCO)活性染色を肺吸虫成虫体壁切片に施行した。テグメント(Tc)細胞、パランキマル(Pc)細胞内のミトコンドリア(Mit)に染色強度および形態に相違があるかどうか、透過型電子顕微鏡を用いてしらべたところ、Tc細胞には本活性染色で強く染まる、クリステが発達した小さなMitが多数存在した。Pc細胞には二つのタイプが存在し、いずれもTc細胞のMitと比べて大きいサイズのMitを含むが、クリステは十分発達しておらず、活性染色の強度もTc細胞Mitと比べて非常に弱いことが明らかになった。 2)に関しては、すでに申請者が確立した方法を用いて肺吸虫成虫からMit分画を調製し、35-55%(w/w)の蔗糖密度勾配遠心法で解析した結果、密度の低い分画には好気的Mitのマーカー酵素であるCCO活性をもつ軽いMitが、密度の高い分画にはNADH-フマル酸還元活性をもつ重いMitがそれぞれ分布した。また、各分画の一部をとり固定後、Mitの形態(断面の大きさ、クリステの形態、染色度の濃淡など)を透過型電子顕微鏡を用いて測定したところ、軽いMitは断面積が小さく、クリステもよく発達していた。重いMitは断面積も大きく染色度の異なる二つのポピュレーションとして分布することが明らかになった。これらの結果は好気的Mitと嫌気的Mitが組織特異的に肺吸虫体壁に発現していることを示している。3)については、本裂頭条虫の幼虫および成虫の体壁Mitの機能、形態を1)と同様な手法でしらべたところ、体壁のTc部分にCCO活性染色で弱く染まる小さなMitが観察された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の計画のうち、実験を行なうにあたってもっとも準備と実行に時間を要するのは2)の肺吸虫Mitの密度勾配遠心による分離と解析であるが、これをスムーズに行なうには、以下に示すいくつかの重要な前提が必要とされる。すなわち、まず第1として、Mit調製のための出発材料(ウエステルマン肺吸虫成虫)が十分回収できること。第2の前提として密度勾配遠心が至適な条件で行なわれ、できるだけ短時間で分離が完了すること。の2点である。 1については、一般に、生化学的解析においてはしばしばもっとも死命を制する前提であるが、今回感染させたイヌの状態は非常に良好であり、多数のメタセルカリアを感染させたにもかかわらず、長期に生存し、発育十分な成虫を回収することが可能となった。これは研究協力者の一人が実験動物に精通した獣医であり、細心の注意と適切な管理のもとに飼育された結果と考えられる。 2については、1とも関連するが、最初の計画では成虫の回収率が悪い場合を考慮して、藤村らが開発した微量標品に適したワンステップ細胞分画法を準備したが、予想以上に出発材料が回収されたため、容量の大きい通常の蔗糖密度勾配遠心法に変更し、これが功を奏して量、質ともに十分な分画が得られ以後の解析が促進したと言える。以上述べたような理由が予定どうリに進捗した理由と言えよう。
|
Strategy for Future Research Activity |
上述したように、本年度は概ね初めに立案した実験計画の通りに進むことができたので、基本的には当初の計画にしたがって次年度を進めたい。すなわち、次の4項目を行なう。 1)マンソン裂頭条虫Mitの高純度分画法による調製(藤村担当) 2)裂頭条虫Mitの呼吸鎖酵素の解析(高宮担当)蔗糖密度勾配遠心法に供するのに十分な量が得られれば、本法をもちいて前年度と同様、Mitの形態、機能解析をおこなう。3)同裂頭条虫Mitのキノン成分の解析(高宮担当)。予備的実験の結果、皮下に寄生するマンソン裂頭条虫幼虫Mitには成虫Mitにはみられない成分がクロマトグラムに検出され、これがロドキノン生合成の中間体である可能性があるので、本成分の同定を質量分析計によっておこなう(藤村担当)。 4)キノン結合蛋白の検索と同定(藤村担当) 当初の計画に従って研究を推進するが、本研究の基盤となったこれまでの成果も含め、研究成果を国際学会に発表するための学会旅費として研究費の一部を使用する予定である。また、研究の進捗状態によっては、今後の展開に非常に重要と考えられる、マンソン裂頭条虫およびウエステルマン肺吸虫のin vitro 培養系の確立にむけた予備的実験も考慮している。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は研究実績の概要においても述べたように、当初予定していたナイコデンツを用いた密度勾配遠心法でMitを調製する予定であったが、出発材料の肺吸虫成虫回収の収量が非常に良好であったため、従来の蔗糖密度勾配遠心法で行なった。そのため、比較的高価なナイコデンツを使用せずに結果を出すことができた。次年度使用額の主な部分はこの試薬購入に充てた部分である。 また、共同研究者の次年度使用額については、抗体作製に充てる予定であったが、実験の都合上次年度に使用するため生じたものである。 本年度は研究の推進方策の項で述べたように国際学会での発表を予定しており、また、当初の計画にはなかった寄生蠕虫のin vitro 培養系確立のための予備実験も予定している。次年度使用額はこれらに充てたい。共同研究者の分については抗体作製に使用する予定である。
|
Research Products
(2 results)