Project/Area Number |
25460519
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Research Institution | Juntendo University |
Principal Investigator |
高宮 信三郎 順天堂大学, 医学部, 非常勤講師 (90138206)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤村 務 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (70245778)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 寄生蠕虫 / 低酸素適応 / 呼吸鎖 / 肺吸虫 / マンソン裂頭条虫 / 回虫 / ミトコンドリア / シトクロムb5 |
Outline of Annual Research Achievements |
下記に示す本年度実施計画の4項目のうち,1),2),3)に関してはほぼ目標を達成した。 1)マンソン裂頭条虫ミトコンドリア(Mit)の高純度分画法による調製, 2)本裂頭条虫Mitの呼吸鎖酵素の解析, 3)同裂頭条虫Mitのキノン成分の解析, 4)キノン結合蛋白の検索と同定 1)については, 成虫Mitを蔗糖密度勾配遠心で分画後, 好気的呼吸鎖の指標酵素のシトクロム c オキシダーゼ(CCO)活性, および嫌気的呼吸鎖の指標酵素であるNADH-フマル酸還元酵素(FRD)活性を各分画について測定したところ, CCO活性とFRD活性のピークは一致せず, FRD活性は高密度分画にピークを示した。これは肺吸虫と同様, 本条虫Mitにおいても機能的に異なる集合として存在することを示している。2)本条虫成虫およびマウス肝臓より亜Mit画分を調製し, 酸素電極をもちいてコハク酸酸化系のシアンに対する感受性を比較した結果, マウス肝臓が20μMで約90%阻害されるのに対して, 本条虫成虫では同濃度で約20%弱の阻害しか観察されなかった。本虫のシアン耐性呼吸をさらに解析した結果, コハク酸酸化による酸素消費の一部はCCOを経由せず, 電子が途中でリークしていることが明らかになった。3)本条虫幼虫プレロセルコイド(plero.)と成虫からMit分画を調製し, 両者のキノンを定量, 比較解析した。その結果, plero. および成虫Mitはいずれもロドキノン-10(RQ10)とユビキノン-10(UQ10) を含み, ロドキノンが主成分である。キノンの総量はplero.と比べて成虫のほうが多く, Mit蛋白あたり, plero. の約6.2倍の含量であった。また, UQに対するRQの比(RQ10/UQ10)はplero. Mit, 成虫Mitでそれぞれ4.9, 30.5の値であった。成虫のFRDの比活性はplero. の約25倍の値を示した。 4)本課題遂行には, 多量のロドキノンを要する。ロドキノンは市販されておらず, 回虫などから抽出精製(高宮担当)しなければならないが, 本年度は十分な量が確保できなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
理由:本年度の計画のうち, 1),2),3)は達成したが4)については未完に終わった。その主な理由は国際学会発表も含め, 成果発表のための著書執筆, 編集業務に予想外の時間を要し必要な研究材料を確保できなかったことによる。しかしながら, 本研究の基盤となった先行研究の成果と現在までの到達点を概説した総説, および今後の研究を進めるうえで不可欠な実験技術と方法に関する著書(寄生虫学研究:材料と方法 2014年版)の編集を担当, 本人も分担執筆者として成果の一部を刊行できたことは上述の実験計画の達成度の遅れを補って余りあると考えている。 1)に関しては, 実験材料の入手が研究の進展を決定する。本年度はマンソン裂頭条虫感染のシマヘビの入手が比較的順調に進み, 十分な量の幼虫プレロセルコイドを得る事ができた。成虫については共同研究者が長年マンソン裂頭条虫の生化学的研究に携わり, 実験動物(イヌ)からの成虫回収に習熟しているため, 必要十分な量の成虫を採集できた。そのため前年度と同様, 密度勾配の媒体としてナイコデンツではなく密度勾配作製用の高純度蔗糖を用いた。2)については酵素活性測定のための分光光度計, および呼吸基質によるMitの酸素消費を測定するための酸素電極等, 用いた計測器はいずれも良好な状態で使用できた。3)キノン成分の抽出法も従来の方法が本裂頭条虫Mitに適用可能であり, また, 解析にもちいた高速液体クロマトグラフィー装置も故障なく使用できた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は26年度に立案した実験計画のうち, 未完に終わった課題を含め3項目を行なう。 1)ブルーネイテブ電気泳動によるミトコンドリア呼吸鎖複合体の解析(高宮担当) 肺吸虫成虫, マンソン裂頭条虫(幼虫および成虫)のMit 分画をブルーネイテブ電気泳動法(Witting, Schagger Methods Cell Biol, 2007)に供し, 複合体I, II, III, IVを一次元で分離する。参照標品としてゲノムプロジェクトが終了した自活性線虫C. elegansあるいは回虫由来の Mit 分画を用いる。二次元目はSDS存在下で各複合体を構成しているサブユニットに分離する。活性検出には本法の変法であるクリアネイテブ電気泳動を用いる。分離したサブユニット蛋白のN-末端配列, in-gel Trypsin 消化と質量分析によって内部配列を決定し、C. elegans, あるいは回虫のゲノム情報を援用することにより構成サブユニットを推定する。2)各発育段階で特異的に発現している蛋白の同定(高宮担当) 上記の3つのMit分画をO’Farrellの二次元電気泳動で展開し, 可溶化しうる全てのミトコンドリア蛋白の等電点, 分子量を決定する。裂頭条虫成虫あるいは幼虫(酸素分圧を変化させて培養)に特異的に発現している蛋白を同定する。この結果とブルーネイテブ電気泳動との結果を比較することにより, 呼吸鎖以外の特異蛋白, および酸素分圧に応答する蛋白を同定する。 3)キノン結合蛋白の検索(藤村担当) 蠕虫から精製したRQ, および市販のUQをaffinity chromatography用担体に共有結合させたカラムをそれぞれ作成する。これに裂頭条虫成虫あるいは幼虫の細胞質, 可溶化したMit, ミクロゾーム分画を吸着させ, 洗浄用バッファーで洗い, その後それぞれのキノンを含むバッファーで溶出させることにより, キノン結合蛋白を遊離させる。本蛋白のキノンにたいする親和性をBiacoreを用いて解析する。
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Causes of Carryover |
理由:当初予定していたナイコデンツを用いた密度勾配遠心法でMitを調製する予定であったが, 前年度の肺吸虫の場合と同様, 出発材料であるマンソン裂頭条虫成虫の回収の収量が非常に良好であったため, 従来の蔗糖密度勾配遠心法で行なった。そのため, 比較的高価なナイコデンツを使用せずに結果を出すことができた。次年度使用額の一部はこの試薬購入に充てた部分である。本年度は研究実績の概要においても述べたように, 実施予定の課題の一つが未完であるためその該当分が残った。また, 共同研究者の次年度使用額については, キノンの結合蛋白および未同定物質の質量分析に充てる予定であったが, 実験の都合上次年度に使用するため生じたものである。計上した研究費については、旅費, 消耗品を主体とした経費が大部分を占める。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度も成果発表の場として国内, 国際学会の出席を考えているのでその旅費として一部使用する予定である。先行研究も含む論文の投稿に必要な英文校閲費, 投稿費用等を予定している。また, 研究のさらなる展開として寄生蠕虫の生体外培養系の確立をめざしている。 次年度使用額は, これら旅費, 投稿用費用, および培養用試薬, 培養機器の購入に充当したい。共同研究者の次年度使用額については,質量分析に必要な試薬, カラム, チップ, 器具, その他に充てる。旅費については国内学会に年1回の発表分および打ち合わせ用交通費等を算定しており, また, 論文の投稿に必要な英文校閲費, 投稿費用等を予定している。
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