2013 Fiscal Year Research-status Report
トリパノソーマ原虫における複合型糖鎖合成経路のミッシングリンクの解明
Project/Area Number |
25460522
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Matsuyama University |
Principal Investigator |
中西 雅之 松山大学, 薬学部, 准教授 (00281048)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | Trypanosoma brucei / GnT-I / 糖転移酵素 |
Research Abstract |
Trypanosoma bruceiはアフリカ睡眠病の原因となる寄生性単細胞真核生物(原虫)である。本原虫は単細胞生物であるにもかかわらず,多細胞生物と同様のN-結合型複合糖鎖を細胞表面に発現するが,この糖鎖の役割はほとんど明らかになっていない。その理由の一つに,複合糖鎖形成に必要な一連の糖転移酵素が,ゲノム上に見つからず,遺伝子ノックアウト解析ができないことが挙げられる。本研究は,哺乳類の複合糖鎖形成の初発段階を触媒するGnT-Iと同じ機能を果たす糖転移酵素(=TbGnT-I)をタンパク質レベルで同定し,それをコードする遺伝子を決定しようとするものである。これにより,T. bruceiにおける複合糖鎖の役割の解明が可能になると期待される。 本年度は,研究実施計画に基づき,純粋培養した原虫からTbGnT-Iの精製を進めた。TbGnT-Iは膜画分に回収されるため,非イオン性界面活性剤で可溶化し,活性画分を各種カラムクロマトグラフィーで精製した。ゲル濾過クロマトグラフィーでは,活性画分の分子量は約400 kDaであることを明らかにした。ここに含まれるタンパク質を質量分析し,同定したすべてのタンパク質をコムギ無細胞系で発現させた。しかし,いずれの組換えタンパク質にもTbGnT-I活性は検出されなかった。一方で,2014年3月28日発行のJ. Biol. Chem.に英国のグループからTbGnT-Iを同定した論文(J. Biol. Chem. (2014) 289, 9328)が発表された。申請者も,該当タンパク質について組換え酵素の活性測定を実施していたが,TbGnT-I活性は検出されておらず,報告されたタンパク質が真にTbGnT-Iをコードしているかについては議論の余地が残されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,TbGnT-I精製のための可溶化条件の検討からはじめ,TbGnT-Iの同定までを計画していた。可溶化条件の検討については,各種界面活性剤のスクリーニングにより,可溶化条件を最適化できた。また,精製については,タンパク質精製で一般的に使用されるイオン交換クロマトグラフィーでの分離が乏しかったが,ゲル濾過クロマトグラフィーで良好に分離され,計画通り質量分析による網羅的なタンパク質同定を実施できるまで進められた。質量分析においては,現有機器の感度不足が懸念されるが,クマシー染色で可視化されるゲル上のバンドはほぼ同定できた。こうして同定した遺伝子をコムギ無細胞系で組換え発現し,酵素活性の測定も実施した。加えて,putativeなβ3糖転移酵素遺伝子についても同様に発現,活性測定を実施した。その中に,TbGnT-Iとして報告されたTb927.3.5660遺伝子も含まれているが,申請者の採用する方法ではTbGnT-I活性は検出されていない。これらは,TbGnT-Iが翻訳後修飾を受けているか,別のタンパク質と複合体を形成していることを示唆している。以上から,進捗状況は概ね順調であると考えた。
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Strategy for Future Research Activity |
TbGnT-Iを同定した論文が発表されたことにより,研究計画に項目を追加する。今回発表された論文では,逆遺伝学の手法を用いて,遺伝子ノックアウト株の表現型から,ノックアウトした遺伝子がTbGnT-Iであることを明らかにしている。また,該当タンパク質を過剰発現させ,免疫沈降法で精製し,その酵素活性を確認している。しかし,TbGnT-Iが複合体として機能している場合,これらのデータは該当タンパク質がその重要な構成成分であることを示しているに過ぎない。すなわち,真のTbGnT-Iが別に存在する可能性がある。申請者が明らかにしたTbGnT-Iの未変性分子量は,該当タンパク質の8倍以上のサイズであり,さらに単独で該当タンパク質を発現させてもTbGnT-I活性を検出できなかったことを考えるとTbGnT-Iが複合体を形成する可能性は高い。 そこで,新たな実験計画として該当タンパク質を過剰発現する原虫株を作製し,ホモジネート中のTbGnT-I活性が上昇するか否か,また,このタンパク質がゲル濾過での活性画分に含まれるか否かを明らかにする。過剰発現株でTbGnT-I活性が上昇しない場合,別のタンパク質が活性発現に必須であることが判明する。さらに,該当タンパク質と複合体を形成するタンパク質を免疫沈降法等で回収し,TbGnT-I複合体の構成タンパク質の同定を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
機器購入にあたり,競争入札を実施することで予定していた購入費を抑制することができた。また,機器の性能が改善されたことにより,従来に比べて試薬の使用量を減らすことができた。また,学会の地元開催もあり,旅費を使用しなかった。これらの理由により,当初の研究計画を十分に遂行しながら,次年度使用額が生じた。 別のグループから報告された論文の検証と,その結果を本研究課題へ応用するために,研究開始当初の計画に,新たな研究計画を追加した.次年度使用額をその費用に充当する。
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Research Products
(3 results)