2015 Fiscal Year Research-status Report
認識分子フィコリンの恒常性維持に果たす新たな役割と分子基盤の解明
Project/Area Number |
25460596
|
Research Institution | Fukushima Medical University |
Principal Investigator |
遠藤 雄一 福島県立医科大学, 医学部, 研究員 (20117427)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | フィコリン (Ficolin) / 自然免疫 / 恒常性維持 / レクチン / レクチン経路 / フィコリン欠損マウス |
Outline of Annual Research Achievements |
フィコリン(ficolin)は、血液中ではセリンプロテアーゼMASPと複合体を形成して、補体レクチン経路を介して外来微生物の認識・排除に働くことが知られている。本研究は、フィコリンが内在分子を認識して生体の恒常性維持に働くことを明らかにするものである。前年度までに、フィコリンA欠損、フィコリンB欠損およびフィコリンAB欠損マウスの12-17週零胎児を用いた解析から、フィコリンB欠損マウスに微細な形態異常を見いだした。この作用は、フィコリンB-MASP1/3複合体が胎児細胞上の標的分子に作用することにより発揮されると推定された。マウス胎児中で働くフィコリン-MASP複合体は、MASP遺伝子から産生されるタンパク質のうちプロテアーゼ活性をもたないsMAPやMAp44を含まず、成体のものとは分子構成が異なることも判明した。一方、DNAマイクロアレイ解析や大規模データに基づくパスウェイ解析などの網羅的解析から、フィコリン1(マウスフィコリンBとヒトM-フィコリンを含むグループ)が細胞の移動・ホーミングさらに造血細胞の分化や成熟に関与する可能性が示唆された。実際に、フィコリンBは末梢NK細胞、Tリンパ球の一部、骨髄ミエロイド系細胞に結合することがわかった。本年度は、M-フィコリンがヒト末梢血細胞、とくに樹状細胞の一集団に特異的に結合することを明らかにした。このM-フィコリンの結合はシアル酸添加や細胞のシアリダーゼ処理によって阻害され、細胞膜表面のシアル酸を認識していることが判明した。フィコリンBトM-フィコリンで見られた細胞結合活性は、フィコリン2に属するフィコリンAにはなく、フィコリン1に特有の生理作用であると考えられた。このように、フィコリン1が特定の細胞集団の細胞膜上のシアル酸含有タンパク質を認識して生体の恒常性維持に関与していることが明らかになった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、フィコリンが内的分子を標的に新たな役割をもつことを示すとともに、その分子機序と生物学的意義を解明することを目指している。これまでの解析の結果、フィコリンとくにフィコリン1に属するフィコリンBがマウスの形態形成に関わる可能性を示すことができた。また、フィコリンBとM-フィコリン(ともにフィコリン1)が特定の末梢白血球を認識しその機能制御に関与する可能性を示すことができた。これらの成果は、これまで知られていた外来異物に対する防御作用に加えて、フィコリン1が内在分子を標的に生体の恒常性維持に働くことを示すものであり、フィコリン研究の新たな展開の出発点となった。しかしながら、フィコリンの標的分子の単離と標的分子認識以後の作用機序については、まだ信頼性のある結果が得られていない。フィコリン1が標的分子上のシアル酸を認識していることはわかったが、そのコアタンパク質の同定とその後の作用機序解明は次年度以降の課題として残された。このように、本研究はこれまでに一定の成果を上げたが、フィコリンの恒常性維持における作用の全容解明にはまだ道のりがある。さらに、今年度は本研究の最終年度に当たっていたが、研究代表者の長期の病気治療のために研究の遅延と成果公表の遅れを余儀なくされた。
|
Strategy for Future Research Activity |
フィコリンの標的分子の単離を最優先課題として解析を進める。これまでの解析を継続して、マウス胎児ホモジェネートからフィコリンB標的タンパク質を単離することを目指す。これと並行して、新たにM-フィコリン結合タンパク質をヒト白血球培養細胞の細胞膜分画から単離することを試みる。FACSの結果から、M-フィコリンは白血球培養細胞上のシアル酸に特異的に結合することがわかっており、フィコリンBよりも高いリガンド特異性をもつことも判明している。フィコリン標的分子の単離はアフィニティクロマトグラフィと質量分析により行うが、フィコリン標的分子がシアル酸であることからアフィニティクロマトグラフィによって得られた試料には複数のタンパク質が含まれることが予想される。真の標的分子であるか否かは、標的分子存在下でのフィコリン1-MASP-3複合体中のMASP-3の活性化を指標に調べる。標的タンパク質認識後のパスウェイについては、生化学的解析およびパスウェイ解析によって特定する。最終的には、フィコリンによる恒常性維持の分子機序と生物学的意義を明らかにする。
|
Causes of Carryover |
研究代表者の病気治療のために実験の一部が遅れ、薬品や実験器材など消耗品の経費が計画より減少した。また、成果発表も遅れその経費が残った。このため、補助事業期間の一年間延長を申請した。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
繰り越した経費は、マウスの維持費、培養細胞の維持費、マウス胎児、成体マウス、ヒトの末梢白血球および培養細胞を用いた実験のための消耗品の経費に使用する。また、成果発表のための経費に使用する。
|
Research Products
(4 results)
-
-
-
[Journal Article] Serum syndecan-4 as a possible biomarker in patients with acute pneumonia.2015
Author(s)
Nikaido T, Tanino Y, Wang X, Sato S, Misa K, Fukuhara N, Sato Y, Fukuhara A, Uematsu M, Suzuki Y, Kojima T, Tanino M, Endo Y, Tsuchiya K, Kawamura I, Frever C W, Munakata M
-
Journal Title
J Incfec Dis
Volume: 212
Pages: 1500-1508
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research / Acknowledgement Compliant
-